新国立劇場バレエ団 ジゼル(2017年6月30日)の感想

新国立劇場バレエ団『ジゼル』の6月30日(金)公演を観てきました。

この日の主役は、小野絢子さんと福岡雄大さんです。

小野さんと福岡さんは2013年の上演した際には、英国バーミンガムロイヤルバレエで『アラジン』に客演していたため、『ジゼル』に出演していませんでした。

そのときの投稿はこちら

今回の公演が二人にとって初めての『ジゼル』となります。

小野さんと福岡さんの『ジゼル』を観る前には、初役のため、少し苦労しているのではないかなと勝手に思っておりました。
とくに理由はありませんが、誰でもはじめてのものには苦労するものですから、そう考えるのは自然だと思います。

しかし、公演が始まりすぐさまその考えは誤りであったことに気づかされました。

バレエ鑑賞歴が浅いころ、バレエの振り付けは全て厳格で、アドリブは基本的にはないもので、誰が踊ろうと、技術面、演技面での差はあれ、基本的には同じだと思っていました。

今回、米澤さんと井澤さんのペア、木村さんと渡邊さんのペア、小野さんと福岡さんのペアを拝見し、それぞれ、異なる演技をされていることが分かりました。

例えば、冒頭部でベンチに腰かけ花占いをする前後の演技では、福岡さん演じるアルベルトがジゼルの隣に座り隙を見てキスしようとして、ジゼルがスルリと身をかわす演技をされ、アルベルトは少しやんちゃな印象でした。

他の二組の演技は異なるように見えました。
座席位置による見え方のせいか、どういうやりとりを演じているのかよく分かりませんでした。

こういったところが二人で話し合いながら役作りをしている部分なのだろうか、と思ったところです。

ここら辺は比較的、違いが分かりやすかったのですが、他の部分でもいろいろと違いがあったのだろうと思います。
まだまだそこまで見分けられるだけの眼力はありません。
しかし、こういった気づきにより、バレエ鑑賞の楽しみ方が広がってきたことは嬉しい発見でした。

さて、小野さん演じるジゼルですが、すぐさま千両役者だと感じました。

以前から、どんな役でも演じ分ける能力が非常に長けていると感じていましたが、今回もさすがだと思い知らされました。

また、踊り自体に関しても、以前、コンテンポラリー作品を踊る小野さんを観たときに思ったことですが、何を踊ってもその道の第一人者になれるということです。

踊りの種類が異なれば、やはり向き不向きが出てきます。
プロのダンサーでもやはり得意分野があるのが普通でしょう。
いくら素晴らしいダンサーでも苦手分野の踊りを踊られると違和感を感じることがあります。
しかし、いままで、小野さんの踊りを観て違和感を感じることはありませんでした。
すべての踊りでその世界にしっかりと入り込んだ踊りをされます。

ジゼルに関しては、小野さんが踊るところを観たことがなかったので、どんな踊りをされるのか想像できなかったのですが、見事に小野さんのジゼル像を体現していました。しかもかなりの高いレベルで。

狂乱のシーンでは、目にうっすらと涙を溜めていたように見えました。
完全に忘我の境地にあり、それに引き込まれて観ているこちらにも悲しい、つらい感情がこみ上げてきました。

6月25日には舞台レッスン見学会も拝見しましたが、その際、小野さんの動きに精彩がないな、と感じていました。

しかし、本番の舞台ではいつも通り、完成度の高い踊りをされています。

クラスレッスンでは、きちんとした動きをすることだけではなく、その日の体調を感じ取るように体との対話に重きを置いて調整を進めていくものなのだろうか、などと考えました。

福岡さんも初役であろうとも、いつもと同じく非常に素晴らしい踊りで、非常に見ごたえのある舞台でした。
若手ダンサーの台頭が目立ってきた新国立劇場バレエ団ですが、まだまだしばらくはこの二人が新国を背負って立つのは間違いないと確信する舞台でした。

キャスト表を見てみると、ウィリたちの中に赤井綾乃さんと横山柊子さんの名前があります。

今春、新国立劇場バレエ研修所を修了し、来シーズンからの入団が決まっています。

その二人も、あの世界最高峰である新国のコールドの中にいたのですね。

とても力強く感じました。