【鑑賞レポ】新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』(2018)(その1)

新国立劇場バレエ団は2018年6月9日(土)から17日(日)の期間に『眠れる森の美女』を上演しました。

4日間・5公演を4キャストでの上演です。

新国立劇場バレエ団の2017/2018シーズンを締めくくるこの公演は、新国立劇場バレエ団の総力により、グランド・バレエの醍醐味を堪能することができた圧巻の舞台でした。

主役のオーロラ姫とデジレ王子にはベテランプリンシパルから若手ソリストまでを織り交ぜ、多様な組み合わせでそれぞれの世界を作り上げました。

さらに、主役以外のキャスティングでも一つの役柄に配するダンサー数を通常よりも増やし、多くのダンサーがソロで踊る機会を得ることができました。

観客にとってはさまざまなダンサーの魅力に触れ、新たな発見に繋がりました。

これは、大原監督を始めスタッフ陣の試行錯誤の結果だと思いますが、とてもありがたい試みです。

4組の主役ペア

今シーズンの『眠れる森の美女』は4日間に5公演を行いました。

最初に4組の主役ペアをおさらいしておきましょう。

  • 6月9日(土)14:00 米沢唯/井澤駿
  • 6月10日(日)14:00 小野絢子/福岡雄大
  • 6月16日(土)13:00 池田理沙子/奥村康祐
  • 6月16日(土)18:30 小野絢子/福岡雄大
  • 6月17日(日)14:00 木村優里/渡邊峻郁

以上のように、小野絢子/福岡雄大ペアのみが2回登板しました。

ベテラン看板ペア、ベテランと若手のペア、フレッシュなペアと多様な組み合わせになりました。

6月9日(土)14:00 米沢唯/井澤駿

開幕を飾ったのは、米沢さんと井澤さんのプリンシパル・ペアです。

米沢さんと言えば、もともと技術力、演技力には定評がありますが、この日はコンディション面でもバッチリだったようで、技術力の高さをあらためて印象付けた舞台でした!

随所で技術が冴えわたり、完璧なバランスには脱帽します。

オーロラ姫登場のシーンだけでも結構ハードですが、ローズ・アダージオにおいて、花婿候補の王子達の手を借りながらピケ・アチチュードでバランスを取る際にも、王子のサポートを必要としない完璧なバランスです!!!

花婿候補の王子達も、「なんと自立した女性なんだ!私を全く必要としていない・・・( ゚Д゚)」と唖然としていたかもしれません。( ´ ▽ ` )

しかし、そこは米沢さんの演技が王子達を救います!

「本当はサポートなんて必要ないんだけど・・・」と心の中でつぶやいていたかは分かりませんが、アイコンタクトする際にはお姫様の可愛らしい表情となり、王子達の自尊心にも配慮しています。( ´ ▽ ` )

米沢さんのテクニックは完璧ですが、井澤さんも引けを取りません。

正確で滑らかな動きに一層、磨きがかかり、個人としての能力がさらにブラッシュアップされ、その成長には目を見張ります。

しかし、今回の舞台で最も進化したと感じたのはパートナーリングではないでしょうか。

それは、レベランスでの米沢さんの表情からも、今まで以上に信頼を得ていることが十分に伝わってきました。

開幕を飾るにふさわしい圧巻の舞台で会場は興奮に包まれました。

6月10日(日)14:00、16日(土)18:30 小野絢子/福岡雄大

開幕での米沢/井澤ペアの素晴らしい舞台を見せつけられると、他のペアにとってはプレッシャーになったのではないでしょうか。

小野/福岡ペアは、そんな不安を吹き飛ばす貫禄の舞台で応えました。

オーロラ姫には、クラシック・バレエの正確な技術が求められると言います。

小野さんのオーロラ姫には、完璧な技術でクラシック・バレエの一つの理想形・完成形を観た思いです。

ルティレでバランスして4番に降りてからのピルエットでは、ポジションは正確で、バランスは崩れず、ラインの美しさはもちろんのこと表情も華やかで、これぞクラシックのお手本といえるものでした。

福岡さんは、踊りもサポートも抜群の安定感で、ヴァリエーションでの見せ場も王子らしい高貴な立ち居振る舞いで超絶技巧を軽々と決めていきます。

二人の円熟した舞台にはいつも感心させられますがその進化・深化は今も続いています。

米沢/井澤ペアとも異なる圧巻の舞台で会場は大いに沸きました。

6月16日(土)13:00 池田理沙子/奥村康祐

フレッシュな池田さんとベテランの奥村さんのペアは昨年に引き続いての組み合わせです。

入団2シーズンめのフレッシュな池田さんをサポートに定評がある奥村さんが優しく支えるといった、制作側の意図による組み合わせでしょうか。

池田さん演じるオーロラ姫は、第1幕における16才の誕生日祝いの場面では、緊張のせいか、表情に硬さが残っている印象を受けました。

しかし、舞台が進むにつれて調子を上げていき、第3幕の結婚式の場面では非常に素晴らしい踊りを披露されていました。

踊り進めるうちにスイッチが切り替わったかのように、第3幕では観客がぐっと引き込まれていくのが感じられ、彼女本来のピュアな表情と素直な踊りが出てきたように思います。

池田さんの最大の魅力は、その美しくピュアなところだと思います。

16才の溌剌とした美しさ、王子様のキスにより100年の眠りから目覚め愛する人と結ばれる歓び、そういったイメージと池田さんのイメージがぴったり合わさり、会場はハッピーオーラに包まれました。

そんなオーロラ姫を優しく見守る王子様役の奥村さん自身もとても優しい方で、内面からにじみ出る優しいイメージがとてもしっくり来たのではないかと感じます。

観客はそんな二人の作り出した優しくふんわりとした幸福感に心を動かされたように思いました。

6月17日(日)14:00 木村優里/渡邊峻郁

『眠り』の千穐楽を飾るのは木村/渡邊ペアです。

昨年、2017年5月公演の『眠り』では、木村さんは井澤駿さんとペアを組んで主役を踊りました。

渡邊さんは、イーグリング版『眠り』では主役デビューです。

そんな二人は、2017年の『ジゼル』以来、ゴールデンウィークに上演された『白鳥の湖』でもコンビを組み、まさにパートナーリングを進化・深化させつつある期待のフレッシュ・ペアです。

木村さんと言えば、何の心配もなく安心して見ていられるダンサーで、クラシック・バレエ・ダンサーとして求められるものをすべて兼ね備えているように感じます。

天から与えられた才能と恵まれた長い手足はもちろんですが、そのうえに努力が加わり、彼女をトップダンサーへと押し上げています。

そこに、渡邊峻郁さんというパートナーが登場し、彼女を輝かせる要素がさらに増えたと感じます。

こういった巡り合わせというのもダンサーを成長させるうえで重要な要素だと思います。

木村さんと渡邊さんは作品に対する理解の方向性も同じようで、それは今回の舞台からも感じられました。

パートナーを固定化することには賛否両論あるかと思いますが、この二人のペアには多くのバレエファンが期待しているのではないでしょうか。

観客の反応からはその期待の大きさを大いに感じました。

今回は、主役ペアの感想を好き勝手に記しましたが、次回は、主役以外のダンサーに注目して感想を記したいと思います。

【関連記事】