2018年11月2日(金)に幕を開けた新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』は、2日(金)、3日(土・祝)、4日(日)に公演を行い、全8公演のうち前半の3公演を終えました。
鑑賞した感想と鑑賞してみて感じた鑑賞ポイントをご紹介したいと思います。
新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』の鑑賞を控えている方にとって、きっとお役に立つ鑑賞ガイドとなるはずです?!
なお、最小限になるように配慮しておりますが、多少のネタバレを含みますので、ご注意ください。
新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』開幕!
新国立劇場バレエ団2018/2019シーズンの開幕を飾ったクリストファー・ウィールドン『不思議の国のアリス』は、英国ロイヤル・バレエにより、世界初演された作品です。
その後、7つのカンパニーによって上演されていますが、アジアで上演が許諾されたのは新国立劇場バレエ団のみです。
大ヒット作ではありますが、巨大プロジェクトだけに費用もバカにならないそうです。
本家である英国ロイヤル・バレエですらナショナル・バレエ・オブ・カナダとの共同制作で、新国はオーストラリア・バレエと共同制作しました。
オーストラリア・バレエからエイミー・ハリスさんとジャレッド・マドゥンさんがゲスト出演したのはそのご縁ですね。
この話題作は新国の上演でも大好評で8公演すべてが完売となったそうです。
(チケットをお持ちでない、残念に思っている方も念のためにチケットがないか確認してみてください。戻り席が発生することもあるようです!)
初日(プルミエ)は2018年11月2日(金)19:00開演でした。
新シーズンの開幕を祝う気持ちもあるのか着飾っている観客も多く、会場は祝祭的な雰囲気に包まれていました。
会場では、セレブな関係者も大勢いらっしゃいました。
筆者のすぐ近くにもあの方やこの方など…
休憩時間にホワイエで一際輝いていたのは、この『不思議の国のアリス』を制作されたクリストファー・ウィールドンさんをはじめとした制作スタッフの皆様です。
ウィールドンさんは、ガタイも良く、赤のジャケットに黒のパンツでビシッと決めていてスターの貫禄十分でした。
赤と黒のカラーコーディネーションは、『不思議の国のアリス』のモチーフにもなっているトランプをイメージしてのことでしょうか。
新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』鑑賞の感想
筆者は、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンで上映された際に映画館で鑑賞し、その後も、多少の予習をした甲斐あってか、作品をよりよく理解して鑑賞できたと思います。
原作は誰もが知るルイス・キャロルの同名小説ですが、原作の世界を非常に良く表現していることに関心させられます。
しかし、まったく原作どおりかといえばそうではなく、設定などを独自の視点で表現しているところもあります。
この作品の魅力を引き出しているのは、個性的なキャラクターが多く、その特徴を上手く際立たせているウィールドンさんによるキャラクター設定ではないか、と思います。
なかでもタイトルロールのアリスは、最初から最後まで舞台で所狭しと大活躍します。
技術的にも演技的にも非常に難度が高いと思いますが、それを見事に表現した小野さんと米沢さんには脱帽しますが、お二人のは性格的にもアリス役には適役だと感じました。
オーストラリア・バレエから客演したエイミー・ハリスさんとジャレッド・マドゥンさんは見るからに『不思議の国のアリス』の世界の住人で、その表現力はさすがでした。
お二人が出演されるのは、前半戦の2公演のみですので、もう、オーストラリアに帰国されているのかと思いますが、お二人の公演を鑑賞できたことは非常に有り難い経験でした。
エイミー・ハリスさん演じるハートの女王は迫力満点でしたが、同じくハートの女王役の本島美和さんも全く引けを取りません。
『眠れる森の美女』のカラボスなどでも本島さんの魅力が発揮されていましたが、ハートの女王役も期待通り、いや、期待以上の素晴らしい演技でした。
迫力ある演技の後のちょっとシュンとしたところもキュートで本島さんの真骨頂を発揮しています。
もう一人だけ、もっとも印象に残ったダンサーを挙げるとすれば、それはラジャ/イモ虫役の井澤 駿さんです。
このコンテンポラリー色の強い踊りを滑らかに、うねるように、そしてセクシーに踊る姿は本当にお見事でした!
全てのキャラクターについて感想を書く訳にはいきませんが、皆さん誰もが素晴らしい演技でした!
それぞれのキャラクターを演じる新国ダンサーの演技に是非とも期待してください。
鑑賞し終えてから、アリスが経験した冒険を通して自分の今の状況を考えさせられることもありました。
例えば、アリスは大変なことになり泣いてしまいます。
その涙は自分が泳げるほどの大きな湖(原作では池)になります。
このシーンを見て自分ごととして考えてみると、自分が置かれている大変な状況は、自分の余計な考えが大きな湖(自分の置かれている状況)を作り出し、自ら作った湖で溺れかけていることを暗示しているのではないか、つまり、自分が困っている状況を作り出したのは当の自分ではないか、と考えたりしました。
これはどうでもよい例ですが、日本語タイトルは『不思議の国のアリス』と人名になっていますが、原題は『Alice’s Adventures in Wonderland』とあるように「冒険」です。
アリスが経験する冒険はどれもがナンセンス(ノンセンス)なものばかりですが、これはただのお話だよ、と一蹴して終わらせることができない不思議な感覚でした。
冒険の後に共通するものは何でしょうか?
筆者は「変化」だと思います。
『不思議の国のアリス』は一般的な冒険譚とも異なりますが、アリスと一緒に「へんてこな」冒険を終えて、筆者のなかでも何かが変わった気がしました。
こんな、「へんてこな」冒険で筆者のなかで何かが変わるなんて、それも自分らしくて嬉しくなりました!
筆者のどうでも良い感想はさておき、会場の状況を客観的にお伝えします。
客席の反応は、拍手や声援から察すると非常に良好な反応でした。
休憩時間などで聞こえてくる感想も非常に好意的な意見ばかりでした。
初日は、クリストファー・ウィールドンさんを始めとした制作スタッフもカーテンコールに参加し、満席の客席は大いに沸き立ちました。
チケットも完売したことを考えれば近い将来の再演は間違いないと思います。
新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』鑑賞ガイド
会場入口では、無料の公演リーフレットを配布しています。
このリーフレットには、あらすじやキャストが掲載されています。
早めに会場に到着するようにし、リーフレットに目を通しておくと舞台をより一層楽しむことができます。
それでは、場面毎に鑑賞のポイントをご紹介したいと思います。
第1幕
プロローグでは、ガーデンパーティーに客人たちが到着します。
この客人たちが、「不思議の国」でいろいろなキャラクターに変身しますので、キャストをしっかり確認しておくと物語の進行を理解しやすくなります。
「不思議の国」に迷い込んだアリスが最初に到着するのは、扉ばかりの廊下(原作では細長い広間)です。
鍵穴から扉の向こうを覗くとそこは美しい庭園ですが、アリスはそこに行きたがっていることを理解しておきましょう。
扉ばかりの廊下では、上から「Drink Me」と書かれた札がついたビンや、「Eat Me」と書かれた札がついたケーキが出てきます。
札は小さいので客席からはよく見えませんが、背景のスクリーン上に「Drink Me」「Eat Me」と映写されます。
達筆なので読みにくいかもしれませんが、文字通り「私を飲んで」「私を食べて」という意味で、アリスが飲んでみたり食べてみたりすると彼女の身に何かが起こります。
このアリスの身に何かが起こる様子をどのように表現するのか、美しい庭園をどのように表現するのか、演出方法に注意してみてください!
第2幕
第2幕は大きく分けて3つの場面で構成されますが、30分と他の幕と比べて短めです。
最初は、マッドハッターが登場する場面で、この演目を代表する場面の一つでもあるタップダンスが大きな見せ場です。
ヴィジュアル面でも非常に印象深く、皆さん、待ってましたという感じではないでしょうか。
タップダンスの妙技を堪能してください。
次は、イモ虫が登場しますが、イモ虫が踊る異国風のコンテンポラリーダンスが魅力です。
井澤さんの踊りはとてもセクシーでした。
一緒になって踊るアリスもキュートです。
その次の場面は、アリスがずっと行きたかった美しい庭園にたどり着きます。
この場面は、音楽と衣装と踊りが非常に華やかですが、第1幕での演出が伏線となっていますので、第1幕で起こる出来事がここで繋がることに気付かされます。
第3幕
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンでは、英国ロイヤル・バレエのケヴィン・オヘア芸術監督に第3幕の好きな場面について質問しています。
オヘア監督の答えは「パ・ド・ドゥも良いけど、なんと言ってもハートの女王」だと答えています。
ロイヤルではラウラ・モレーラさんが演じていましたが、新国では、ゲストのエイミー・ハリスさん、本島美和さん、益田裕子さんのトリプルキャストです。
ここは本当にハートの女王の独壇場でした!
ハリスさんも本島さんも見事な演技でしたが、まだ登場していない益田さんの演技にも注目してください。
益田さんは11/10(土)13:00開演、11/11(日)14:00開演の舞台に出演されます。
益田さんなら思いっきり吹っ切れたハートの女王を演じてくれると思います。
ここでは「タルト・アダジオ」という踊りが出てきますが、これは『眠れる森の美女』の「ローズ・アダジオ」のオマージュです。
このハートの女王に場をさらわれてしまいますが、アリスとハートのジャックのパ・ド・ドゥは純粋に美しいクラシック・バレエだと感じます。
これも何かのオマージュだと思いますが、さて、何のオマージュでしょう?
すぐに分かると思いますよ。
エピローグは原作とは異なります。
不思議な余韻を残す終わり方ですが、皆様はどのように感じられるでしょうか?
その他のみどころ
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンでは音楽を担当されたジョビー・タルボットさんのインタビューがあり、『アリス』の音楽は「打楽器」を多用しているとを話されていました。
確かにオーケストラピットを確認すると打楽器が多く、あまり見かけない楽器もありました。
会場内の写真撮影が禁じられていたため写真はありません。
ぜひ、音楽にも注目してみてください。
休憩時間などにはオーケストラピットなども注意深く観察してみると面白いですよ。
「不思議の国」へと誘う不思議な印象の音楽や各キャラクターを象徴するテーマ音楽、冒険心をくすぐる音楽など、この作品は音楽も非常に魅力的で、観客からも音楽に対する好意的な感想が聞こえてきました。
プロジェクションマッピングなどの最新映像装置も効果的に使用し、「不思議の国」で起こるへんてこな経験を効果的に演出していることろも見どころです。
後半戦に向けて
後半戦の最大の話題は、福岡雄大さんのマッドハッターではないでしょうか。
マッドハッター役は、ゲストのジャレッド・マドゥンさん、菅野英男さん、福岡雄大さんのトリプルキャストですが、まさか主役を演じる福岡さんがマッドハッターも演じるとは驚きです!
福岡さんがマッドハッターを演じるのは、11/8(木)の公演1回のみと、とても貴重です。
福岡さんのマッドハッターを観ることができる方は非常にレアでラッキーですね。
また、第3幕でも記したように益田裕子さんのハートの女王が満を持して登場します。
益田さんがこういった強烈なキャラクターを演じたところを見たことがない分、どのようなハートの女王を見せてくれるのか、大いに期待しましょう!
だらだらと筆者の感想にお付き合いいただき、有り難うございました。
客席からも聞こえてきましたが、『不思議の国のアリス』は純粋に楽しめるエンターテイメント作品です。
多くの場面やキャラクターが登場しますので、原作を知っていた方が見やすいのは確かですが、予備知識がなくても無邪気に楽しめる作品であることは間違いありません。
ほんの少しだけでも日常を忘れて「不思議の国」でアリスと一緒に冒険してみることが最大の鑑賞のポイントではないかと思います。
それでは、皆さんの鑑賞が素晴らしい体験となりますように!
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