【鑑賞レポ】新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』(2018/2019シーズン)の振り返りと感想

新国立劇場バレエ団2018/2019シーズン『ラ・バヤデール』が終演しました。

公演期間中の2019年3月6日には、小野絢子さんの平成30年度(第69回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞が文化庁から発表され、小野さんはニキヤを好演し自らの受賞に花を添えました。

今回は、『ラ・バヤデール』の公演を振り返ってみたいと思います。

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』(2018/2019シーズン)の振り返りと感想

4年ぶりとなった新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』(2018/2019シーズン)は、蓋を開けてみれば、小野絢子さんの実力を再認識させる舞台でした。

小野さんの舞台人としての存在感や若手ダンサーの活躍、名場面などを振り返りながら感想を記したいと思います。

小野絢子さん 空気を一変させる表情、圧倒的な存在感と表現力

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』2018/2019シーズン公演期間中に小野絢子さんの平成30年度(第69回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞の知らせがあったことにより、今回の舞台は小野さんというダンサーの魅力について再確認する機会となりました。

今回の『ラ・バヤデール』で鑑賞でもっともはっとさせられたのは、ニキヤのヴェールがハイブラーミン(大僧正)により取り去られた瞬間でした。

ヴェールが取られ現れた小野さん演じるニキヤの表情は神秘的であり凛とした美しさを湛え、舞台の空気を一変させました。

いつもと違う小野さんを感じた瞬間です。

思い返して見れば、場面毎に揺れ幅の大きな感情を表現することになるニキヤにとって、観客が初めて触れるこのヴェールを取るときの表情こそ、後のドラマを予感させる重要な表情だったように思います。

ソロルとの愛に満ちた踊り、ガムザッティとのソロルを巡る諍い、冥界へと旅立ちソロルの幻想に登場するニキヤ、場面毎にニキヤに求められるものは全く異なります。

『ラ・バヤデール』という演目の成否はこのニキヤの存在感によって大きく左右されるものだと感じました。

その大役を小野さんは期待以上に好演しましたが、それを可能にしたのはバレエダンサーとしての技術はもとより表現の巧みさ、存在感ではないでしょうか。

そこにはそれを支えるソロル役を演じた福岡さんのさり気ないサポートがあったように思います。

小野さんは、自分が好き勝手踊っても福岡さんがなんとかしてくれる、と謙遜気味に話すことがありますが、このパートーナーシップがあるからこそ持てる力を最大限に発揮できるのだと感じる舞台でもありました。

小野絢子さん 平成30年度(第69回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞

若手ダンサーの活躍

今回の上演では、小野絢子さん、米沢 唯さんといったベテランに加え、ニキヤ役のデビューを果たした柴山紗帆さん、ガムザッティ役のデビューを果たした木村優里さん、渡辺与布さんら若手も大役を好演し舞台を大いに盛り上げました。

また、今シーズンから入団した速水渉悟さんは、超絶技巧を駆使して場をさらう黄金の神像(ブロンズアイドル)やソロルの友人役を好演し、これからの活躍を期待させました。

第3幕 影の王国では、『ラ・バヤデール』を象徴するコール・ド・バレエ最大の見せ場がありますが、この影たちの中には翌週の公演を控えた新国立劇場バレエ研修所の研修生も交替で出演しました。

さすがに、主役級を踊る最上級生は自分のリハーサルに専念していたものと思いますが、1年次の第15期生からは阿部純花さん、岸谷沙七優さん、松宮里々子さん、山内優奈さん、予科生からは服部由依さん、吉田朱里さんの合計6名が出演しました。

あの一糸乱れぬコール・ド・バレエの中に研修生、予科生がいたのかと思うと驚きですね。
( ゚д゚)

その他の名場面

『ラ・バヤデール』はバラエティに富んだ様々な踊りが楽しめますが、筆者が個人的に感じた名場面を紹介します。

「ジャンペの踊り」は垂れの踊りとも呼ばれ、ハーレム・パンツの片脚につけた長い垂れを操りながら踊ります。

ダンサーの今村美由起さんがブログで述べているように、この踊りは素晴らしいにも関わらず、拍手のタイミングがないという残念な問題があります。

しかし、今シーズンの公演では、9日(土)13:00、9日(土)18:00、10日(日)では拍手が起こりました!

とくに9日(土)18:00と10日(日)の公演での拍手は大きかったように思います。

今村さんのブログを読まれている方、このブログを読んでくださった方が拍手をしてくださったのかもしれません!

拍手のタイミングは本当に難しいと思います。

拍手をすべきようなタイミングでも、すぐに次の音楽が始まる構成の時は拍手を控えるべきで、単純に踊りが良かったら拍手をすれば良いというものではなく、音楽の構成をも理解している必要があります。

そういった面では、舞台を見慣れた方が的確なタイミングで拍手をすることも出演者とともに舞台を作り上げる観客のあるべき姿ではないかと感じました。

今村さんのブログでの発言とそれに応えた観客のコラボにより起きた拍手であればとても喜ばしいことだと思います。

頭上に乗せた水の入ったつぼを持って踊る女性にその水を飲ませてと迫る子供とのやりとりが楽しい「つぼの踊り」も、舞台の本筋とはあまり関係ありませんが筆者の好きな踊りです。

今回も原田舞子さんがとてもチャーミングでおどけた表情で魅せ、一緒に踊る子役のちびっ子ダンサーも愛くるしく振る舞い、愛憎渦巻くドラマのオアシス的存在でした。

「つぼの踊り」は、今回ガムザッティ デビューを果たした木村優里さんも子役で出演したことのある由緒ある(?)役です。

できれば成長した木村さんが踊る「つぼの踊り」も観てみたかった気がします。

そして、忘れてはいけないのが、第3幕 影の王国でのコール・ド・バレエの名場面です。

新国は32名のダンサーが3段つづら折りのスロープをアラベスク・パンシェを繰り返しながら降りてくる非常にスケールの大きな演出となっており、それを演じるダンサーの一糸乱れぬ踊りも相まって非常に見応えがあります。

今回は、全日、関 晶帆さんがトップの大役を努めました。

ご存知の通り、アラベスク・パンシェを繰り返す回数はトップのダンサーが最も多く、関さんは、毎公演で39回のアラベスク・パンシェをしたことになります。

絶対に失敗してはいけないプレッシャーの中、最初に行うアラベスク・パンシェの緊張感は半端ないのではないでしょうか。

他にも最も有名な踊りの一つである黄金の神像(ブロンズアイドル)など、名場面は枚挙にいとまがありません。

皆さんはどの場面がお気に召しましたでしょうか?

鑑賞のまとめ

新国立劇場バレエ団の2018/2019シーズンは開幕公演の『不思議の国のアリス』『くるみ割り人形』と立て続けに満員御礼となりましたが、『ラ・バヤデール』は集客面では苦戦したようです。

これほどドラマティックでみどころ豊富な舞台にも関わらず苦戦したことが筆者にとっては残念に思いました。

しかし、「ジャンペの踊り」での拍手のように、観客として一緒に舞台を作り上げていくこともできるのかもしれないと感じさせることもありました。

『ラ・バヤデール』が次に上演されるのは何年後かは分かりませんが、そのときまでにはこのブログを成長させ、多くの方に舞台を観てみたくなったと思っていただけるように魅力をお伝えできるようにしたいと思います。

『ラ・バヤデール』公演概要

公演概要

■日程:2019年3月2日(土)~10日(日)(全5公演)
■会場:新国立劇場 オペラパレス(東京・初台)
■上演時間:第1幕40分(休憩25分)/第2幕35分(休憩25分)/第3幕45分

キャスト

3月2日(土)14:00
ニキヤ:小野絢子
ソロル:福岡雄大
ガムザッティ:米沢 唯
ハイ・ブラーミン(大僧正):菅野英男
ラジャー(王侯):貝川鐵夫
マグダヴェヤ:宇賀大将
トロラグヴァ:中家正博
アイヤ:今村美由起
ジャンペの踊り:広瀬 碧、朝枝尚子
黄金の神像:福田圭吾
つぼの踊り:柴山沙帆、(子役 清田めいな、秦 悠里愛)
アダジオ(ソロルの友人):木下嘉人、腹 健太
パ・ダクション ブルー・チュチュ:木村優里、寺井七海、細田千晶、廣田奈々
パ・ダクション ピンク・チュチュ:池田理沙子、奥田花純、五月女 遥、飯野萌子
影の第1ヴァリエーション:寺田亜沙子
影の第2ヴァリエーション:池田理沙子
影の第3ヴァリエーション:木村優里

3月3日(日)14:00
ニキヤ:米沢 唯
ソロル:井澤 駿
ガムザッティ:木村優里
ハイ・ブラーミン(大僧正):貝川鐵夫
ラジャー(王侯):中家正博
マグダヴェヤ:福田圭吾
トロラグヴァ:渡邊峻郁
アイヤ:中田実里
ジャンペの踊り:渡辺与布、益田裕子
黄金の神像:木下嘉人
つぼの踊り:原田舞子、(子役 小宮彩香、髙瀬水綺)
アダジオ(ソロルの友人):速水渉悟
パ・ダクション ブルー・チュチュ:寺田亜沙子、寺井七海、玉井るい、廣田奈々
パ・ダクション ピンク・チュチュ:池田理沙子、飯野萌子、広瀬 碧、廣川みくり
影の第1ヴァリエーション:五月女 遥
影の第2ヴァリエーション:奥田花純
影の第3ヴァリエーション:細田千晶

3月9日(土)13:00
ニキヤ:柴山沙帆
ソロル:渡邊峻郁
ガムザッティ:渡辺与布
ハイ・ブラーミン(大僧正):菅野英男
ラジャー(王侯):貝川鐵夫
マグダヴェヤ:宇賀大将
トロラグヴァ:中家正博
アイヤ:今村美由起
ジャンペの踊り:広瀬 碧、朝枝尚子
黄金の神像:奥村康祐
つぼの踊り:玉井るい、(子役 清田めいな、秦 悠里愛)
アダジオ(ソロルの友人):木下嘉人、腹 健太
パ・ダクション ブルー・チュチュ:木村優里、寺井七海、細田千晶、廣田奈々
パ・ダクション ピンク・チュチュ:池田理沙子、奥田花純、五月女 遥、飯野萌子
影の第1ヴァリエーション:寺田亜沙子
影の第2ヴァリエーション:池田理沙子
影の第3ヴァリエーション:木村優里

3月9日(土)18:00
ニキヤ:小野絢子
ソロル:福岡雄大
ガムザッティ:米沢 唯
ハイ・ブラーミン(大僧正):菅野英男
ラジャー(王侯):貝川鐵夫
マグダヴェヤ:宇賀大将
トロラグヴァ:中家正博
アイヤ:今村美由起
ジャンペの踊り:広瀬 碧、朝枝尚子
黄金の神像:速水渉悟
つぼの踊り:柴山沙帆、(子役 清田めいな、秦 悠里愛)
アダジオ(ソロルの友人):木下嘉人、腹 健太
パ・ダクション ブルー・チュチュ:木村優里、寺井七海、細田千晶、廣田奈々
パ・ダクション ピンク・チュチュ:池田理沙子、奥田花純、五月女 遥、飯野萌子
影の第1ヴァリエーション:寺田亜沙子
影の第2ヴァリエーション:池田理沙子
影の第3ヴァリエーション:木村優里

3月10日(日)14:00
ニキヤ:米沢 唯
ソロル:井澤 駿
ガムザッティ:木村優里
ハイ・ブラーミン(大僧正):貝川鐵夫
ラジャー(王侯):中家正博
マグダヴェヤ:福田圭吾
トロラグヴァ:渡邊峻郁
アイヤ:中田実里
ジャンペの踊り:渡辺与布、益田裕子
黄金の神像:奥村康祐
つぼの踊り:原田舞子、(子役 小宮彩香、髙瀬水綺)
アダジオ(ソロルの友人):速水渉悟
パ・ダクション ブルー・チュチュ:寺田亜沙子、寺井七海、玉井るい、廣田奈々
パ・ダクション ピンク・チュチュ:池田理沙子、飯野萌子、広瀬 碧、廣川みくり
影の第1ヴァリエーション:五月女 遥
影の第2ヴァリエーション:奥田花純
影の第3ヴァリエーション:細田千晶

影たち(交替出演)
飯野萌子、川口 藍、玉井るい、中田実里、広瀬 碧、益田裕子、若生 愛、赤井綾乃、朝枝尚子、稲村志穂里、今村美由起、加藤朋子、菊地飛和、北村香菜恵、木村優子、小村美沙、清水理那、関 晶帆、関 優奈、中島春菜、原田舞子、土方萌花、廣川みくり、廣田奈々、守屋朋子、山田歌子、横山柊子、伊東真梨乃、徳永比奈子、阿部純花、岸谷沙七優、松宮里々子、山内優奈、服部由依、吉田朱里

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