撮影:堀田力丸/提供:フジテレビジョン
2021年11月21日(日)、サントリーホール 大ホールにおいて、日本の若きトップミュージシャンによる六重奏団がバレエ・ダンサーとコラボレーションした公演「The Sixth Sense ~Music in Wonderland~」が開催されました。
サントリーホールの大ホールといえば「世界一美しい響き」を基本コンセプトに掲げて設計されたクラシック音楽コンサート専用設計ホールで、いわばクラシック音楽の聖地ともいえる会場。
ヴィンヤード型コンサートホールと呼ばれる舞台後方にも客席がある配置のため、通常、バレエ公演で使用されることはなく、とても貴重な機会となりました。
六重奏団の「The Sixth Sense」は、100年に1人の逸材と称される世界的フルート奏者の上野星矢さんをはじめ、若くしてオーケストラの首席奏者やソリストとして活躍しキャリアを重ねる金子亜未さん(オーボエ)、西川智也さん(クラリネット)、長 哲也さん(ファゴット)、濱地 宗さん(ホルン)、岡田 奏さん(ピアノ)といった次代を担う超一流のミュージシャン6人により結成されました。
バレエは、現在、東京バレエ団で活躍しているブラウリオ・アルバレスさんと元東京バレエ団の高橋竜太さんが振付を担当し、元東京バレエ団の渡辺理恵さん、川島麻実子さん、高橋慈生さんに加えて振付をしたアルバレスさんと高橋さんも出演しました。
公演は2部構成となっており、第1部ではバレエとのコラボレーションによる作品が2曲披露され、第2部ではThe Sixth Sense のみによる作品が2曲披露されました。
最初に上演された曲はラヴェル『ピアノ協奏曲ト長調 第2楽章』で、東京バレエ団ソリストのブラウリオ・アルバレスさんが演出・振付を行い、元東京バレエ団プリンシパルの川島麻実子さんとともに踊りました。
踊りは筋書きのない抽象的な作品でラヴェルの世界観を叙情的に描き、落ち着いた曲調に合わせた抑制の効いた動きから始まり、次第に盛り上がり、最後に見せた川島さんの内面から湧き出る喜びにも似た表情が印象的でした。
メキシコ出身のアルバレスさんは、ドイツのハンブルク・バレエ・スクールを卒業し、ハンブルク・バレエを経て東京バレエ団初の外国人ダンサーとして入団し、東京バレエ団のダンサーが創作に取り組むChoreographic Projectをはじめ創作活動にも積極的に取り組んでいます。
川島麻実子さんは東京バレエ団プリンシパルとして多くの公演で主役を演じてきた看板プリマでしたが、2021年3月31日付で東京バレエ団を退団し動向が注目されていました。
久し振りの舞台であったかと思いますが、ブランクを全く感じさせない表現力で魅せてくれました。
引き続き上演されたプロコフィエフ『ピーターと狼』は元東京バレエ団の高橋竜太さんが振り付けました。
『ピーターと狼』はプロコフィエフが1936年に子どもたちに楽しくオーケストラ音楽を聴いてもらおうと自ら物語を作り作曲し、物語ではオーケストラのいろいろな楽器が登場人物を表現していますが、今回の公演では六重奏に合わせて内門卓也さんが木管五重奏とピアノに編曲したものでした。
小鳥:フルート(上野星矢/川島麻実子)
アヒル:オーボエ(金子亜未/ブラウリオ・アルバレス)
猫:クラリネット(西川智也/渡辺理恵)
ピーターのおじいさん:ファゴット(長 哲也/高橋竜太)
狼:ホルン(濱地 宗/ブラウリオ・アルバレス)
ピーター:ピアノ(岡田 奏/高橋慈生)
愛らしい小鳥の川島さん、コミカルなアヒルとクールな狼の二役を対比的に演じたブラウリオ・アルバレスさん、本物の猫以上に無駄のない俊敏さとしなやかさで好演した美しいラインを持つ渡辺理恵さん、強靭なテクニックでピーターを快活に演じた高橋慈生さんらに加え、演出・振付の高橋竜太さんもピーターのおじいさんと猟師役で出演し、ナレーションはフジテレビアナウンサーの西山喜久恵さんが担当しました。
童話の登場人物らを楽しく演じ、子どもが身を乗り出すように見入っていた様子も見受けられ、エレガントなクラシック・バレエとは異なりますが、確かな技術に支えられた見事な表現力に大人も楽しく鑑賞することができました。
プロコフィエフといえばバレエファンにとっては『ロミオとジュリエット』や『シンデレラ』でおなじみですが、『ピーターと狼』も子ども向けの楽曲とはいえ登場人物や動物が持つ性格や雰囲気を見事に想起させる音楽で、The Sixth Sense の演奏が生み出した臨場感や躍動感が物語に命を吹き込んでいるようでした。
第2部は趣が変わって本来のクラシック音楽コンサートとなり、 The Sixth Sense のメンバーのみにより、ラヴェル『マ・メール・ロワ』とガーシュイン『ラプソディ・イン・ブルー』が披露されました。
私はバレエファンとはいえ、よく見聞きするものを除き音色と楽器が一致しないほど音楽には疎いのですが、それがゆえに「あの音色を奏でている楽器は何だろう」と常々関心を持っており、この公演は超一流の音楽家による迫力の演奏を鑑賞することができて、音楽をたのしめたばかりでなく勉強にもなりました。
バレエ公演でも2階席など、オーケストラ・ピットの様子を見ることができる場合には、舞台以外にもピット内を観察することがよくあります。
バレエ公演では照明が暗いためにピット内の様子を窺い知ることはできませんが、この公演ではステージ中央でダンサー並みに全身を使って演奏する様にも圧倒され、たったの6人でここまでの音が出せるのかと驚き、感激しながら鑑賞しました。
おわりに
今回の公演は六重奏団とバレエのコラボレーションということもあり、来場者における音楽ファンとバレエファンの比率が気になりますが、『ピーターと狼』が上演された割には子どもの姿が少ない印象でした。
『ピーターと狼』は楽器やバレエを習っている子どもが楽しめることはもちろんですが、もとは、プロコフィエフが子ども向けに創作した作品であり、日本語ナレーションやバレエダンサーによる踊りもあるので、本格的な音楽やバレエに接したことがない子どもにとっても興味を持つきっかけになる公演だっただけに少し残念です。
上野星矢さんも今回の公演に手応えを感じ早い時期に再演したいと思われているようなので、次回はぜひ、多くの子どもたちにも鑑賞してもらいたいと思えた公演でした。
バレエファンにとって音楽は「縁の下の力持ち」と思いがちですが、今回の公演を鑑賞し、舞台上でミュージシャンとバレエダンサーが共演する機会がもっとあっても良いのではないかと考える機会にもなりました。
さらに、この公演レポートの執筆中におめでたいビッグ・ニュースが飛び込んできました!
上野星矢さんが12月1日に「一年前の今日、バレリーナの川島麻実子さんと結婚致しました」とツイッターで報告し、加えて「新しい命を授かり10ヶ月になる元気な男の子がいます」と記しています。
川島さんが休団期間を経て2021年3月に東京バレエ団を退団した理由にはそのような経緯があったことを理解しました。
海外では、例えばロシアでは、世界的ヴァイオリニストのワディム・レーピンと世界的バレエ・ダンサーのスヴェトラーナ・ザハロワのように夫婦で共演している例もあるとおり、ミュージシャンとダンサーのカップルは芸術性を高め合うことができる相性の良いパートナーではないでしょうか。
公私ともに充実した上野さんと川島さんが、今後、活躍の場を広げて、ますますご活躍されることを期待したいと思います。
公演概要 |
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The Sixth Sense ~Music in Wonderland~ ■日程:2021年11月21日(日)開演 14:00(開場13:00) ■会場:サントリーホール 大ホール(東京都港区赤坂1−13−1) ■出演: <演奏> The Six Sence 上野星矢(フルート)、金子亜未(オーボエ)、西川智也(クラリネット)、 長 哲也(ファゴット)、濱地 宗(ホルン)、岡田 奏(ピアノ) <バレエ> 川島麻実子、渡辺理恵 ブラウリオ・アルバレス、高橋慈生、高橋竜太 <ナレーション> 西山喜久恵(フジテレビアナウンサー) ■演奏曲目: ♪ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調 第2楽章(バレエ付き) 演出・振付:ブラウリオ・アルバレス バレエ:川島麻実子、ブラウリオ・アルバレス ♪プロコフィエフ(内門卓也編):ピーターと狼(バレエ、日本語ナレーション付き) 演出・振付:高橋竜太 バレエ:川島麻実子、渡辺理恵、ブラウリオ・アルバレス、高橋慈生、高橋竜太 ♪ラヴェル:マ・メール・ロワ ♪ガーシュイン:ラプソディ・イン・ブルー |