2022年3月16日、オランダ国立バレエは、ボリショイ・バレエを退団したオリガ・スミルノワさんとマリインスキー・バレエを退団したヴィクター・カイシェタさんの入団を発表しました。
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻以来、ロシアでは外国人ダンサーの退団が相次いでおり、ボリショイ・バレエではプリンシパルのジャコポ・ティッシさんとソリストのダビジ・モタ・ソアレスさんが、マリインスキー・バレエではプリンシパルのザンダー・パリッシュさんらが退団していますが、この問題を理由にボリショイ・バレエのロシア人ダンサーが退団するのは初めてとのことです。
オリガ・スミルノワ(Olga Smirnova)
プリンシパル
ロシアのボリショイ・バレエのプリンシパル、オリガ・スミルノワさんは、ロシアのウクライナ侵攻への反対を表明し、母国ロシアで働くことが困難になったとのことです。
スミルノワさんはテレグラム(ロシアのメッセンジャーアプリ)で「正直になり、全身全霊を賭けて戦争に反対すると言わなければならない」、「ロシアの才能豊かな人々や文化・スポーツ分野での功績を誇りに思っていたが、ロシアのことを恥ずかしく思うことになるなんて思ってもみなかった」と戦争反対を明言し落胆を隠し切れないようです。
ロシアではウクライナへの軍事侵攻に対して厳しい言論統制が行われており、非常に勇気のある行動だと思います。
ウクライナ人を祖父に持つクオーターのスミルノワさんにとっては、傍観してはいられなかったのでしょう。
スミルノワさんはかねてより移籍についても考えていたそうですが、最近の状況がその動きを早めたそうで、オランダ国立バレエについてはバレリーナとしてのキャリア形成にもぴったりな素晴らしいバレエ団と考えているようです。
オランダ国立バレエへの移籍を決めた要因として、以前から候補として考えていたこと、国際的に著名なカンパニーであること、クラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスの両ジャンルで幅広いレパートリーを持つことなどが挙げられるそうです。
スミルノワさんは、オランダ国立バレエ常任振付家であるハンス・ファン・マーネン(Hans van Manen)さんの大ファンでもあり、また、スミルノワさんと同様にロシアのバックグラウンドを持ちオランダ国立バレエでプリンシパルとして活躍したラリッサ・レジュニナ(Larissa Lezhnina)さんを深く尊敬していることもあるそうです。
レジュニナさんは、ワガノワ・バレエア・カデミー出身で、キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)を経て、1994年にオランダ国立バレエにプリンシパルとして入団し、2014年6月に引退。
スミルノワさんのオランダ国立バレエでの主演デビューは、4月初旬に上演されるRachel Beaujean 版『ライモンダ』になる予定です。
マリウス・プティパの原振付を尊重しつつ、ストーリーには新たなひねりが加えられるそうです。
【プロフィール】
ロシア、サンクトペテルブルク出身。
ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学し、名教師リュドミラ・コワリョーワ先生のもとで学ぶ。
2011年 ワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業し、同年、ボリショイ・バレエにソリストとして入団。
2016年 プリンシパルに昇格。
2022年3月 オランダ国立バレエにプリンシパルとして入団。
また、マリインスキー・バレエ、アメリカン・バレエ・シアター、ウィーン国立バレエ、ハンブルク・バレエ、モンテカルロ・バレエなど、世界の著名なバレエ団で客演しています。
ボリショイ・バレエでの主なレパートリーには、ニキヤ(ラ・バヤデール)、オデット/オディール(白鳥の湖)、タチヤーナ(オネーギン)、オーロラ姫(眠れる森の美女)、ライモンダ(ライモンダ)、キトリ(ドン・キホーテ)、ジゼル(ジゼル)、アンナ・カレーニナ(アンナ・カレーニナ)などがあります。
コンテンポラリーでは、ジョン・ノイマイヤー、ジャン=クリストフ・マイヨー、イリ・キリアン、ウィリアム・フォーサイス、クリスティアン・シュプックなどの作品があります。
ヴィクター・カイシェタ(Victor Caixeta)
ソリスト
ロシアのマリインスキー・バレエでソリストとして活躍していたヴィクター・カイシェタさんもオランダ国立バレエにソリストとして移籍します。
カイシェタさんはブラジル出身ですが、ロシア軍によるウクライナ侵攻という状況を受け、プロのバレエ・ダンサーとしてのキャリアをスタートした第二の故郷ともいえるロシアを去るという難しい決断をしました。
永久メイさんと同じ年にマリインスキー・バレエに入団し、ペアを組む機会も多かったため、日本人にもなじみ深いダンサーです。
カイシェタさんも『ライモンダ』に出演予定です。
【プロフィール】
ブラジル出身。
2017年 ベルリン国立バレエ学校を卒業し、同年、マリインスキー・バレエに入団。
2019年 ソリストに昇格。
2022年3月 オランダ国立バレエにソリストとして入団。
マリインスキー・バレエでのレパートリーには、ブロンズ・アイドル(ラ・バヤデール)、王子(くるみ割り人形)、デジレ王子(眠れる森の美女)、ロミオ(ロミオとジュリエット)などがあります。
コンテンポラリーでは、ハンス・ファン・マーネン、ウェイン・マクレガー、トワイラ・サープなどの作品があります。