Ballet Asteras 2017(バレエ・アステラス)の感想

文化庁と新国立劇場の主催によるBallet Asteras 2017(バレエ・アステラス)を観に行きました。

海外で活躍する若手日本人ダンサーを応援する、という趣旨により開催され、今回が8回目の公演です。

新国立劇場バレエ研修所に加え、A.Y.ワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーからも精鋭が出演しています。

いろいろな立場の若手ダンサーが垣根を超えて交流し、刺激を受ける機会となっているものと感じました。

Ballet Asteras 2017(バレエ・アステラス)
平成29年7月22日(日)15:00開演
新国立劇場オペラパレス

第1部

新国立劇場バレエ研修所の『シンフォニエッタ』で幕が開きました。
研修所生ということで、まだプロではありませんが、技術面だけでなく、表現力もすでにプロ並みでは、と感じるほどです。
なかでも、髙井惠里さんの華やかな笑顔が目を引き、将来の活躍を期待せずにはいられません。

第1部では、その他に、ジョージア国立バレエ プリンシパルの高野陽年さんの『Still of King』が異彩を放っていました。
これはコンテンポラリー作品ですが、その身体能力の高さに観客も引き込まれていました。
高野さんは、ワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーを首席で卒業し、ナチョ・ドゥアトの指名でロシア国立ミハイロフスキー劇場バレエに入団し、その後、ニーナ・アナニアシヴィリのスカウトでジョージア国立バレエに移籍したという素晴らしい経歴の持ち主です。
コンテンポラリー作品のみならず古典作品を踊るところを是非観てみたいと思いました。
今後、注目が高まるダンサーの一人であることは間違いないでしょう。

第2部

第2部はワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーによる『人形の精』で幕が開きました。
これには度肝を抜かれました。
女性ダンサーは6年生と7年生が、男性ダンサーは9年生が出演されていましたが、ということは16~18才くらいということだと思いますが、容姿も含めてほとんどプロです。(;’∀’)

続くのは、新国立劇場バレエ団から若手ダンサーの登場です。
入団後、矢継ぎ早に主役を踊られている池田理沙子さんと2017/2018シーズンからプリンシパルに昇格する井澤駿さんのペアです。
演目は、深川秀夫振付による『ソワレ・ド・バレエ』です。
今年2月の『ヴァレンタイン・バレエ』でも拝見しましたが、そのときよりもさらに熟成されていたように感じました。
最後に向けて連続フェッテが大きな見せ場だと思いますが、この技の難しさ、盛り上がりに対して、音楽が合っていないのではないかなぁ、というのが個人的な残念な感想です。
音楽自体の良し悪しではなく、ドン・キホーテや白鳥の連続フェッテと同じくらい盛り上がるべき場面なのに今一つ盛り上がりにかけるのは音楽と踊りが合っていないように思えます。

続く菅野茉里奈さんとリシャト・ユルバリゾフさんによる「『Multiplicity』よりチェロのパ・ド・ドゥ」です。
この作品は、リシャト・ユルバリゾフさん演じるJ.S.バッハが菅野茉里奈さん演じるチェロ(楽器)を奏でるナチョ・ドゥアト振付によるコンテンポラリー作品です。
チェロであることから奏者の懐の中という狭い空間で高い身体能力を活かして驚異的な踊りをされており、初めて観る踊りに新鮮な驚きと興味を持ちました。
ベルリン国立バレエのソリストである菅野茉里奈さんも今後、注目が集まるのではないかと感じました。

ちなみに、どうでもよい話ですが、私が初めて観たバレエの舞台はベルリン国立バレエの『ラ・バヤデール』です。

そして、この劇場にいる全ての人が注目していたといっても過言ではない寺田翠さんと大川航矢さんの登場です。
二人は、今年の6月のモスクワ国際バレエコンクールで寺田さんが銅賞を大川さんが金賞を受賞したばかりということもあり、非常に注目されていました。
演目も急遽、モスクワ国際バレエコンクールで踊られた『ダイアナとアクティオン』に変更され、期待はいやが上にも高まります。
寺田さんの凛とした存在感と大川さんの跳躍による浮遊感に観衆は酔いしれたのではないでしょうか。
人間の跳躍力には限りがあり、わずかな滞空時間にできることはそう多くないはずです。しかし、大川さんの跳躍を観ていると、その間にいろいろなことができるのではないかという錯覚に陥りました。
期待通りの演技に会場は大いに沸きました。

最後に

今回、海外で活躍される日本人ダンサーの踊りを拝見して、日本人ダンサーの層の厚さを認識いたしました。
世界で活躍されていても日本では知られていないダンサーが少なくないことを思い知りましたが、そのようなダンサーを知ることができたよい機会でした。
ダンサーにとっても、もっと祖国の皆さんに自分の踊りを観てもらいたい、という思いを遂げることができた、とても素晴らしい企画だと思います。
プロを目指している新国立劇場バレエ研修所の研修生、ワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーの生徒にとってもとても刺激的な時間だったと思います。
このようにして、バレエという芸術が受け継がれていくのでしょう。
1日だけの舞台でしたが、もっと多くの皆さんに観ていただきたかったと思う公演でした。