バレエ『海賊』はガラ公演やコンクールなどでも超絶技巧を駆使したパ・ド・ドゥがとても人気のある演目ですが、全幕作品を鑑賞する機会は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、バレエ『海賊』のおすすめDVD&Blu-rayについて紹介します。
バレエ『海賊』
イギリスの詩人ジョージ・ゴードン・バイロンによる物語詩 『海賊』 をもとに、1856年、ジョゼフ・マジリエがアドルフ・アダンの音楽に振り付け、パリ・オペラ座で初演されました。
その後、多くの振付家により改訂版が発表されており、音楽もチェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、レオン・ミンクスの曲が追加されました。
マリウス・プティパは改訂を重ね、「花園の場」などの名場面が付け加えられ、
現在、上演されている版の原型が出来上がりました。
地中海を舞台に、海賊の首領コンラッドと奴隷商人にさらわれる娘メドーラの愛を中心に争い、裏切りなどの人間模様を描いたバレエです。
男性ダンサーによる勇壮な踊りがふんだんに盛り込まれ、メドーラの華やか存在との対比がこの作品の魅力を一層引き立たせています。
アドルフ・アダンの音楽に様々な作曲家の音楽が追加された複雑な経緯があり、また、登場人物が多くストーリーも複雑なことから、決定版がなく、その分、創作意欲を駆り立てられ、現在でも多くの改訂版が制作されています。
■ イングリッシュ・ナショナル・バレエ『海賊』(コジョカル&ムンタギロフ)
■ ウィーン国立バレエ『海賊』(ガブドゥーリン&ヤコヴレワ)
■ K-BALLET COMPANY『海賊』(浅川紫織 、S・キャシディ、熊川哲也)
■ トゥールーズ・キャピトル・バレエ団『海賊』(グティエレス、ガルスティアン、渡邊峻郁)
■ キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)『海賊』(ネフ、アシルムラートワ、ルジマートフ)
■マリインスキー・バレエ『海賊』(キム・キミン/アリーナ・ソーモワ/ティムール・アスケロフ)
イングリッシュ・ナショナル・バレエ『海賊』
振付:アンナ・マリー・ホームズ
主演:アリーナ・コジョカル&ワディム・ムンタギロフ
英国ロイヤル・バレエで活躍していたタマラ・ロホがイングリッシュ・ナショナル・バレエの芸術監督に就任した翌2013年に、2013/14シーズンのオープニング演目として新制作したプロダクションです。
2016年夏にはパリ・オペラ座ガルニエ宮でも上演され、高い評価を得ています。
映画『バットマン』の衣裳でも著名なボブ・リングウッドが舞台美術・衣装を手がけ、エキゾチックで絢爛豪華な舞台に仕立て上げています。
男性ダンサーによるパワフルな踊りが随所に盛り込まれ、マイムを効果的に用いて複雑なストーリー展開や人間関係の理解を助けています。
主演は、英国ロイヤル・バレエから移籍したアリーナ・コジョカルと英国ロイヤル・バレエ移籍前のワディム・ムンタギロフが努めます。
英国ロイヤル・バレエは『海賊』をレパートリーに持っていないため、ワディム・ムンタギロフが『海賊』に出演している姿を見ることができる貴重な映像です。
アンナ・マリー・ホームズ版ではコンラッドの踊りが増やされており、ワディム・ムンタギロフの踊りを堪能することができます。
日本人ダンサーの高橋絵里奈さんがギュリナーラ役で出演し、カルロス・アコスタの甥であるヨナ・アコスタが出演していることにも注目です。
【キャスト】
メドゥーラ(ギリシャの娘):アリーナ・コジョカル
コンラッド(海賊の首領):ワディム・ムンタギロフ
ギュリナーラ(ギリシャの娘):高橋絵里奈
ランケデム(奴隷商人):トミトリー・グルジェフ
アリ(コンラッドの忠臣):ジュノア・スーザ
ビルバンド(コンラッドの友人):ヨナ・アコスタ
パシャ(トルコの総督):マイケル・コールマン
パシャの家来:ホアン・ロドリゲス
指揮:ギャヴィン・サザーランド
管弦楽:イングリッシュ・ナショナル・バレエ管弦楽団
【クレジット】
音楽:アドルフ・アダン(チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、レオン・ミンクスらによる楽曲追加)
振付:アンナ・マリー・ホームズ(マリウス・プティパ、コンスタンティン・セルゲイエフに基づく)
台本:V・ド・サン=ジョルジュ、J・マジリエ
舞台美術・衣装:ボブ・リングウッド
照明:ニール・オースティン
【レーベル】Opus Arte
【収録】2014年8月
【発売】2015年5月
【収録時間】100分
ウィーン国立バレエ『海賊』
振付:マニュエル・ルグリ
主演:ロバート・ガブドゥーリン&マリア・ヤコヴレワ
元パリ・オペラ座バレエ・エトワールでウィーン国立バレエ芸術監督のマニュエル・ルグリが2016年に初めて振付を手がけた全幕バレエ。
メドーラとコンラッド、その部下のビルバントと恋人ズルメアそしてグルナーラとパシャの「3つの愛の物語」として物語が展開します。
バレエ『海賊』では主要な登場人物である、海賊の首領コンラッドに忠誠を尽くすアリは登場しません。
複雑な登場人物の関係が整理され、分かりやすく洗練されたプロダクションになりました。
【キャスト】
コンラッド(海賊の首領):ロバート・ガブドゥーリン
メドーラ(ギリシャの娘):マリア・ヤコヴレワ
グルナーレ(メドーラの友人):リュドミラ・コノワロワ
ランケデム(バザールの主/奴隷商人):キリル・クルラーエフ
ビルバンド(コンラッドの友人):ダヴィデ・ダト
オダリスク:ナターシャ・マイヤー/ニーナ・トノリ/プリスカ・ツァイゼル
ウィーン国立バレエ
ウィーン国立歌劇場バレエ学校
指揮:ワレリー・オフシャニコフ
演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団
【クレジット】
振付・演出:マニュエル・ルグリ
音楽:アドルフ・アダン ほか
美術・衣裳:ルイザ・スピナテッリ
【特典映像】
インタビュー マニュエル・ルグリ
リハーサル映像
【レーベル】新書館
【収録時間】128分
【発売日】2017年8月15日
K-BALLET COMPANY『海賊』
振付:熊川哲也
出演:浅川紫織 、S・キャシディ、熊川哲也
熊川哲也さんにとって『海賊』はとても思い入れのある作品です。
2007年、熊川哲也版『海賊』の世界初演から数日後、熊川哲也さんは公演中にダンサー人生を断たれるかもしれないほど深刻な怪我を負いました。
翌2008年の『海賊』再演時には公演直前にまたもや負傷し、降板せざるを得ない状況になりました。
三度目の正直となる、2010年の三度目のツアーで念願のアリ役に復帰することができ、熊川哲也さんは涙があふれそうになるほど幸せだったそうです。
女性ダンサーには、メドーラ役に浅川紫織さん、グルナーラ役に松岡梨絵さんがキャスティングされ、舞台を一層華やいだ空間にしています。
熊川哲也さんはアリ役で出演し、圧倒的な超絶技巧を披露していますが、なんと言っても、今となっては熊川哲也さんがアリを演じる可能性は極めて低いため、非常に貴重な映像です!
【キャスト】
メドーラ:浅川紫織
コンラッド:S・キャシディ
グルナーラ:松岡梨絵
パシャ:L・ヘイドン
ランケデム:伊坂文月
ビルバント:B・バットボルト
アリ:熊川哲也
【クレジット】
芸術監督:熊川哲也
演出・再振付:熊川哲也
音楽:アドルフ・アダン/レオ・ドリーブ/リッカルド・ドリゴ/チェーザレ・プーニ/レオン・ミンクス
舞台美術・衣裳:ヨランダ・ソナベンド/レズリー・トラヴァース
照明:足立恒
【レーベル】ポニーキャニオン
【収録時間】107 分
【発売日】2010年8月4日
トゥールーズ・キャピトル・バレエ団『海賊』
振付:カデル・ベラルビー
出演:マリア・グティエレス、ダヴィット・ガルスティアン、渡邊峻郁
パリ・オペラ座バレエ団の元エトワール、カデル・ベラルビーが芸術監督を務めるフランスのトゥールーズ・キャピトル・バレエ団の映像として『海賊』『美女と野獣』『死せる王妃』の3作品がセットとなったお得なDVD・Blu-rayが発売されています。
トゥールーズ・キャピトル・バレエ団は、新国立劇場バレエ団プリンシパルの渡邊峻郁さんが移籍前に所属していたバレエ団で、渡邊さんは『海賊』(スルタン役)と『美女と野獣』(野獣役)の2作品に出演しています。
『海賊』
奴隷の娘:マリア・グティエレス
海賊:ダヴィット・ガルスティアン
スルタン:渡邊峻郁
スルタンの愛人:ジュリエット・テラン
海賊の仲間:デミアン・ヴァルガス
振付:カデル・ベラルビー
音楽:アドルフ・アダン、アントン・アレンスキー、デイヴィッド・コールマン、エドゥアルド・ラロ、ジュール・マスネ、ジャン・シベリウス
指揮:デイヴィッド・コールマン
管弦楽:トゥールーズ・キャピトール国立管弦楽団
『美女と野獣』
野獣:渡邊峻郁
美女:ジュリー・ロリア
振付:カデル・ベラルビー
音楽:ルイ=クロード・ダカン、ヨーゼフ・ハイドン、ジェルジ・リゲティ、モーリス・ラヴェル
『死せる王妃』
フェランテ王:アートム・マクサコフ
イネス・デ・カストロ:マリア・グティエレス
ドン・ペドロ:ダヴィット・ガルスティアン
ナヴァレ王の娘:ジュリエッテ・テリン
振付:カデル・ベラルビー
音楽:チャイコフスキー
指揮:コーエン・ケッセルス
管弦楽:トゥールーズ・キャピトール国立管弦楽団
【レーベル】Opus Arte
【発売日】2017年7月27日
【特典映像】キャスト・ギャラリー
【収録時間】『海賊』(100分)、『美女と野獣』(105分)、『死せる王妃』(110分)
キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)『海賊』
出演:エフゲニー・ネフ、アルティナイ・アシルムラートワ、ファルーフ・ルジマートフ
1989年に収録されたキーロフ・バレエの『海賊』です。
当時はソビエト連邦時代で、マリインスキー劇場はキーロフ劇場と呼ばれていました。
古い映像ですが、若かりし日のファルーフ・ルジマートフがアリ役で出演している貴重な映像です。
【キャスト】
コンラッド:エフゲニー・ネフ
メドーラ:アルティナイ・アシルムラートワ
グルナーラ:イェレーナ・パンコーワ
ランテゲム:コンスタンチン・ザクリンスキー
アリ:ファルーフ・ルジマートフ
指揮:ヴィクトル・フェドートフ
管弦楽:キーロフ劇場管弦楽団
【クレジット】
音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リカルド・ドリゴ、オルデンブルク公爵
【レーベル】ワーナーミュージックジャパン
【収録】1989年4月 レニングラード/キーロフ劇場(マリインスキー劇場)
【収録時間】 85分
【発売日】2012年3月7日
マリインスキー・バレエ『海賊』
振付:ピョートル・グーゼフ
出演:キム・キミン、アリーナ・ソーモワ、ティムール・アスケロフ
2019年に収録された映像で、世界中の著名な劇場から出演依頼が絶えない注目のプリンシパル、キム・キミンがアリ役で出演しています。
共演はメドーラ役にアリーナ・ソーモワ、海賊の首領コンラッド役にティムール・アスケロフが出演し、若手期待の人気ダンサー、マリア・ホーレワはオダリスク役で出演しています。
【キャスト】
コンラッド:ティムール・アスケロフ
メドーラ:アリーナ・ソーモワ
アリ:キム・キミン
ギュルナーラ:ナデージダ・バトーエワ
ランケデム:フィリップ・スチョーピン
ビルバント:イスロム・バイムラードフ
パシャ:ソスラン・クラエフ
オダリスク:ダリア・イオノワ、マリア・ホーレワ、アナスタシア・ニュイキナ
【クレジット】
原振付:マリウス・プティパ
振付:ピョートル・グーゼフ
音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、ペーター・オルデンブルク
【レーベル】新書館
【収録】2019年6月(マリインスキー劇場)
【収録時間】 約100分
【発売日】2021年3月
まとめ
最後までご覧いただき、有難うございました。
今回は、バレエ『海賊』のおすすめDVD・Blu-rayを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
ガラ公演やコンクールでは人気演目の割ですが、全幕をレパートリーに持つカンパニーが少なく、そのため、発売されているDVD・Blu-rayも多くないのが実情です。
有名なパ・ド・ドゥを見て、作品の全体像はどうなっているのだろうかと思い、全幕作品を見たいと感じている方も少なくないかと思います。
数は多くありませんが、紹介したDVD・Blu-rayの中から、好きなカンパニーのプロダクションやお気に入りのダンサーが出演している映像をご覧いただき、バレエ『海賊』の魅力を今一度見直していただければ幸いです。