「【鑑賞レポ】新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』(2018)(その1)」では、主役を中心に感想を記しましたが、(その2)では、主役以外に注目して感想を記したいと思います。
当然のことですが、『眠れる森の美女』という作品が主役だけで成り立つわけではなく、『眠り』という世界観を作り上げるためには多くの出演者が必要です。
妖精や動物(おとぎ話の主人公)など登場人物が多く、多くのダンサーの魅力に触れることができました!
リラの精 VS カラボス
イーグリング版『眠れる森の美女』の大きな特徴のひとつがカラボスの演出です。
通常、男性がマイムで演じるところをイーグリング版は女性ダンサーがトウ・シューズを履いて踊ります。
リラの精と同等のパワーを持たせることにより、その対決の構図が舞台をよりドラマティックに盛り上げ、奥行きを与えているように感じられました。
カラボスは、式典長カタラビュートの手違いにより、オーロラ姫の洗礼式に招待されなかったことに怒り、手下を従えて登場します。
最初は怒りの感情を抑制しつつも周囲を威嚇し、その抑えられた怒りは、オーロラ姫が死ぬことを予言し手下に持ち上げられ高笑いし爆発します。
この高笑いする演技が圧巻で、本当に笑い声が聞こえてきそうな迫真の演技です。
カラボス迫真の怒りを表現するマイムと踊りに観客は当事者としてその場にいるかのように舞台上の出来事に引き込まれました!
休憩時間に「カラボス、カッコいい!」という感想が聞こえてきましたが、それも頷ける迫真の演技と踊りでした。
カラボス役は、初演時から出演している本島美和さんと今シーズン入団した渡辺与布さんのダブルキャストです。
本島さんのためにある役ではないかと思うほどのハマり役ですが、彼女なりの役作りにおける工夫も随所に織り込まれているそうです。
対して渡辺さんですが、若手には難しいと思っていたカラボスを見事に演じ、このキャラに負けないくらい濃いキャラの持ち主であることが判明しました。(笑)
二人の素晴らしい演技と踊りを表現しきれない私の表現力が悔やまれますが、このキャラが強く立つからこそリラの精が生きてくるのだと思います。
カラボスの呪いにより「オーロラ姫が死んでしまう」と全ての人が動揺しますが、その空気を一変させるのがリラの精です。
優しい「リラの精」のテーマに乗って登場し、カラボスの呪いによって「死ぬ」ことを否定し、「眠る」ことにしてしまう両腕を左右に開くマイムに全ての人は安堵したのではないでしょうか。
私はこの演技に大いにカタルシスを感じました。
このリラの精を演じたのは、初演時にキャスティングされた寺田亜沙子さんと2017年の再演時にキャスティングされた細田千晶さんと木村優里さんです。
(ちなみに2014年の初演時、リラの精は寺田亜沙子さんと貞松浜田バレエ団からゲスト出演した瀬島五月さんのダブルキャストでした)
カラボスの強いキャラが本島さんのためにあるのかのように感じるのと同じく、リラの精は優しく柔らかい雰囲気の寺田さんのためにあるかのような役です。
実際、初演時のチラシ等はこの二人が演じています。
イーグリング版『眠り』を観た人にとってカラボスは非常に格好良いキャラクターだと印象付けられたことは間違いないでしょう。
発表会等で、この役を踊りたいという人たちが増えるのではないでしょうか!?
(手下とのからみもかなり難しいですね)
6人の妖精
6人の妖精には、アーティストから廣川みくりさん、朝枝尚子さん、横山柊子さんも抜擢されました。
このような機会はダンサーに成長の機会を提供しますし、観客にとっては普段、ソロで踊るところを観る機会が少ないダンサーの踊りをじっくり見ることができてあらたな発見になり、有り難い機会です。
なかでも横山さんがとても印象に残りました。
横山さんは、新国立劇場バレエ研修所の第12期修了生で今シーズンから入団しました。
長身で華やかな表情がとても舞台映えしました。
足の甲が驚くほどきれいに出ていました!
これから存在感を増してくるダンサーの一人ではないかと思いました。
カヴァリエ
カヴァリエを踊ったのは、木下嘉人さん、小柴富久修さん、清水裕三郎さん、中島駿野さん、原健太さん、福田鉱也さん、佐野和輝さん、浜崎恵二朗さん(交代出演)です。
男性ならではの高度な技術を要するジャンプや回転技で魅せる場面です。
多くの難しい技が詰め込まれており、正確で音楽に合わせた動きが求められ、さらにそれを揃える必要があります。
皆の動きが揃えばめちゃくしゃ格好良い踊りですが、初日の6月9日(土)と10日(日)は息の合わない動きでした。
このバラバラの動きにはちょっと、いや、かなり残念な思いをしました。
ところが、翌週の16日(土)、17日(日)には動きが揃い、最高に格好良い場面へと大変貌を遂げていました。
出演者の誰かが「俺たちの動きマズくね?」と言ったかどうか分かりませんが、休演期間の5日間で必死に修正したのかも知れません。
運悪く、動きの悪い公演に当たってしまった方には、彼らの名誉のためにも彼らの奮起をお伝えしたいと思います!
村の人々
村の人々は第2幕第1場に登場しますが、村の人々という役名にしては豪華過ぎるメンバーです。( ゚Д゚)
女性陣が、奥田花純さん、柴山紗帆さん、五月女遥さん、広瀬碧さんで、男性陣は、井澤諒さん、福田圭吾さん、小野寺雄さん、佐野和輝さん、髙橋一輝さん、渡部義紀さん(交代出演)です。
エメラルド、サファイア、アメジスト、ゴールド
エメラルド、サファイア、アメジスト、ゴールドには、寺田亜沙子さん、細田千晶さん、奥田花純さん、五月女遥さん、柴山紗帆さん、飯野萌子さん、広瀬碧さん、廣田奈々さん、木下嘉人さん、原健太さん、小野寺雄さんが交代で出演されています。
踊り自体もかなり難度が高そうですし、主役やソロで踊る方々が多いので、個性が強くバラバラにならないのかな、と余計な心配をしてしまいますが、そこはプロですね!(失礼な!)
フロリナ王女と青い鳥
池田理沙子さん/奥村康祐さん、米沢唯さん/渡邊峻郁さん、柴山紗帆さん/井澤駿さん
とくに米沢さんの存在感は群を抜いていました。
客席の反応もまるで主役に対する拍手と歓声です。
出番が終わったときには、まるで『フロリナ王女と青い鳥』という全幕ものを見終えたのではないかと錯覚するほどに会場は沸き立ちました。
池田理沙子さんと柴山紗帆さんが演じるフロリナ王女は、踊りはもちろん表情が抜群でした。
フロリナ王女がどのような方かは存じませんが、フロリナ王女を主役に全幕ものを制作したとしたら池田さんと柴山さんはぴったりの配役ではないかと感じました?!
私が振付家なら、これは絶対に何が何でも実現させますね!?
長靴を履いた猫と白い猫
長靴を履いた猫は前回に続き原健太さん、宇賀大将さんがキャスティングされ、新たに佐野和輝さんが加わりました。
白い猫には、前回に続き原田舞子さんのキャスティングと、初役として益田裕子さんと関晶帆さんが新たに挑戦しました。
原田さんは初演時、再演時と実績があり、期待通りの素晴らしい演技でしたが、益田さんも負けず劣らずセクシーな白い猫を演じ、長靴を履いた猫とコミカルな駆け引きで魅せました。
白い猫の脚(後足?)の上を長靴を履いた猫の手(前足?)の指を這うように歩かせ、それを「やめて!」と言わんばかりに白い猫が叩きます。
この駆け引きで原田さんが遠慮なく音がするほど叩くもんですから会場は大喜びです!
残念なのは6月16日(土)13:00からの公演にキャスティングされていた関さんが怪我により降板したことです。
背が高くスラリとしたプロポーションの関さんの白い猫もきっとセクシーだったのではないでしょうか。
次回に期待したいと思います。
猫は被り物をしていて顔が見えませんが、カーテンコールの際には取っても良いのではないでしょうか。
『くるみ割り人形』でネズミの王様は被り物を取りますので、『眠り』で猫が被り物を取っても良いと思うのですが。
せっかく良い踊り、良い演技を披露してもダンサーが報われない気がします。
赤ずきんと狼
赤ずきんには初演時からハマり役の五月女遥さんと広瀬碧さんのほかに奥田花純さんが加わりました。
小野絢子さんは、「エンタメ特化型情報メディア スパイス」のインタビューで「イーグリング版『眠り』の見どころ、醍醐味」について次のように述べています。
「まずフィジカル面で大変ですね。3幕のディベルティスマンの『赤ずきんと狼』『親指トム』も運動量が多く、アクロバティックな要素が入っています。」
参考サイト:エンタメ特化型情報メディア スパイス
新国立劇場バレエ団が『眠れる森の美女』3回目の再演、小野&福岡ペアが紡ぎ出すおとぎ話の世界へ
小野さんのことばどおり、あかずきんにはフィジカル面の強さを持つ3名が起用されています。
赤ずきんはコミカルな演技が求められ、素人目には、単に面白おかしく踊って演技しているように見えますが、よくよく観るとかなり大変な踊りをしていますよね!
体力的にも技術的にも。( ゚Д゚)
あれだけの踊りをしかも演技しながら踊るのですから、恐れ入ります。
スピーディでアクロバティックな踊りに加え、細かい表情や演技に会場からは笑い声がこぼれていました。
とくに広瀬さんの表情と演技が光り、彼女の女優ダンサー(?)としての魅力を再発見しました!
親指トム
前掲の小野さんの「運動量が多く、アクロバティックな要素が入っています」という言葉にもあるように、非常にスピーディな動きで技術力が求められる親指トムには、福田圭吾さん、井澤諒さん、髙橋一輝さんの3名がキャスティングされました。
福田さんは前回に引き続いてのキャスティングです。
今シーズンから入団された井澤諒さんはもちろん初役ですが、『眠り』のなかでは親指トムで起用されるのではないか、ということは多くの方が予想したのではないでしょうか。
入団シーズンでの彼の起用のされ方を見ていると、超絶技巧で場をさらう役回りが定番化したように思います。
すばらしいテクニックの持ち主で、脚をしなやかにそして伸びやかに蹴り上げるバットマン・デリエールが目に焼き付いています。(本当に脚が伸びていくように見えます)
以上、好き勝手な感想を書いて参りました。
バレエファンを名乗っておきながら、なんですが、『眠れる森の美女』ってかなり楽しい演目ですね!!!
個々の役を軸に感想を書きましたが、舞台全体から受ける印象、音楽、衣装、舞台装置など、これぞクラシック・バレエといった豪華絢爛な舞台でした。
見どころ(聴きどころ)が多すぎて鑑賞する度にあらたな魅力を発見します。
何回観ても飽きそうにありません!
今さらながら、この演目の偉大さに気づいた公演でした。
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