【鑑賞レポ】ヌレエフの半生を描いた映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』の感想

ルドルフ・ヌレエフの半生を描いた映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』が2019年5月10日(金)に公開され、バレエファンを中心に話題となっています。

『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』などで知られる名優レイフ・ファインズの監督第3作ということなどもあり、映画ファンにとっても関心が高いようです。

今回は、映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』を鑑賞した感想などを書きたいと思います。

映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』

映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』の感想

映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』は、1961年にソ連から西側に亡命し、その後のバレエ界に大きな影響を及ぼしたルドルフ・ヌレエフの半生を、幼少期を過ごしたウファ時代、ワガノワ・バレエ・アカデミーで学んだレニングラード時代、亡命に繋がるパリ公演での日々の3つの時代を交錯しながら描いた作品です。

主人公がバレエ史上最も重要な人物の一人であることは間違いないうえに、現役プリンシパルダンサーのオレグ・イヴェンコを主役にキャスティングし、さらにヌレエフの再来とまで言われているバレエ界のスーパースター セルゲイ・ポルーニンも出演していることなどもあり、バレエファンにとって見逃すことのできない作品になっています。

クライマックスはル・ブルジェ空港での亡命シーンですが、3つの時代を交錯させながら映画は進んでいき、映画のどの場面にもヌレエフの人柄が垣間見えるエピソードが描写され、全く飽きることなく最後まで観ることができました。

この3つの時代を行きつ戻りつする表現は、ヌレエフのパリでの経験を前半生と重ね合わせ、そのときヌレエフが感じていたであろう心象風景を描き、ヌレエフの内面を主観的に追体験しているようでしたが、時間の流れが何度も途切れてしまい、ここはシンプルに時系列を追いながら描いても良かったのではないかと感じました。

そのような見にくさは感じたものの、ヌレエフという人物とヌレエフが生きた時代のレニングラードとパリの様子は、全編を通してとても興味深く、その映像に引き込まれました。

全編美しい映像に仕上がっていただけあり、制作においては徹底的に本物にこだわったようです。

サンクトペテルブルク(レニングラード)ではワガノワ・バレエ・アカデミーとエルミタージュ美術館、パリではルーブル美術館やサント・シャペル教会、パリ・オペラ座ガルニエ宮でロケが行われ、当時を再現した衣装や自動車などもあり、タイムスリップしたように素晴らしい風景や空気感を堪能できます。

バレエシーンでは先述のとおり、カザン・タタール国立オペラ劇場バレエ団現役プリンシパルのオレグ・イヴェンコやセルゲイ・ポルーニンを起用し、本物のバレエシーンに仕上がっています。

さらにこの映画のためにバレエ・アドバイザー&振付を担当したのがヨハン・コボーであるばかりか、レイフ・ファインズ監督はバレエシーンの撮影のために多くのバレエを見学し、ダンサーたちにも話を聞いているそうで、元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル カルロス・アコスタの意見も活かされているそうです。

バレエシーンでもっとも注目していたのは『ラ・バヤデール』です。
『ラ・バヤデール』は、1877年にマリインスキーにて初演されましたが、西側で初めて全幕上演されたのは意外と最近で、1961年のキーロフ・バレエ(マリインスキー・バレエ)のパリ公演、つまり、この映画に登場する公演なのです!

バレエ史上の出来事としても非常に重要で、『ラ・バヤデール』好きの筆者にとっては、たとえ映画とはいえ、その時の様子を映像で確認することができてとても嬉しく感じました。

レイフ・ファインズ監督もワガノワ時代のバレエ教師プーシキン役で出演しています。

プーシキン役で出演することは事前に知ってはいても、はげた髪型や少しお腹が出ている体型に変身し、流ちょうにロシア語を操る姿に、レイフ・ファインズであることに気づかない人も続出するほどの好演ぶりです。

プーシキンはきっとこんな人だったのだろうという私にとってのプーシキン像が出来上がってしまいました!

映画のストーリー的には、ル・ブルジェ空港での亡命シーンがクライマックスです。

それは、ソ連への強制送還後の悪夢やバレエへの情熱、家族に対して迷惑をかけてしまうという思いなど、様々な感情が一挙に押し寄せてくる精神的に非常に緊迫した状況であり、自分がもし同じ立場に立たされたらどうしたであろうか、と考えずにはいられません。

この亡命シーンは実際よりも控えめに演出して撮影したのではないかと思いますが、結果を知っていても手に汗握るスリルは圧巻でした。

この状況を打開できるのはクララ・サンしかいないと考えたピエール・ラコットも素晴らしい判断ですが、実際に打開してみせたクララ・サンの頭脳と行動にも大きく感情を揺さぶられました。

映画を見終え、最初に思ったことは…「早くトイレに行きたい…漏れてしまいそう…」
続いて思ったのは、「なぜ2時間の映画には途中休憩がないのだろうか…」(´▽`)

事なきを得て我に戻り、映画について思いを馳せました。

もし、ピエール・ラコットがクララ・サンに助けを求めなければ、クララ・サンの機転がなければ、ヌレエフがル・ブルジェ空港で亡命せずにソ連に戻っていたら、彼はどうなったのだろう?現在のバレエは異なるものになっていたのだろうか?などと考えずにはいられませんでした。

歴史にタラレバは禁物ですが、あれこれと思いを馳せるのも楽しいものです。

映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』は、バレエファンのみならず、映画としても十分に楽しめ、また、1960年前後のレニングラードとパリの様子を感じることのできる美しい映像を眺めているだけでも十分に見応えのある素晴らしい作品です。

バレエが好きな方は、バレエ史上もっとも重要な人物の一人ルドルフ・ヌレエフの半生を理解しておいて損はありませんし、バレエに対する取り組み方にも影響を受けるかもしれませんので、ぜひともご覧いただきたいと思います。

バレエについてあまり知らない方にとっても映画としても十分に楽しめる作品ですので、是非ご覧いただきたいと思います。

映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』について

■タイトル:『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』(原題:” The White Crow “)
■スタッフ:
– 監督:レイフ・ファインズ
– プロデューサー:ガブリエル・ターナ
– 脚本:デヴィット・ヘアー

■キャスト:
– ルドルフ・ヌレエフ:オレグ・イヴェンコ(カザン・タタール国立オペラ劇場バレエ団 プリンシパル)
– クララ・サン:アデル・エグザルホプロス
– ユーリ・ソロヴィヨフ:セルゲイ・ポルーニン
– ピエール・ラコット:ラファエル・ペルソナ
■パンフレット:800円
映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』の製作について、制作スタッフ、主要キャストのコメントなどを交えてまとめられており、作品をより深く理解するのに非常に役立ちます。
また、ルドルフ・ヌレエフに関しても年譜や簡潔にまとめられた生涯に加え、実際にパートナーとして何度も共演したことのある日本を代表するプリマ森下洋子さんのコメントも掲載されており、ヌレエフについて多面的に理解することができます。

映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』2019.5.10(金)公開

(YouTube / キノフィルムズ 公式チャンネル)

下の記事では、映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』鑑賞に役立ちそうな内容や動画をまとめています。

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