気鋭の振付家が作品を振り付け、豪華なダンサーが出演することで話題の「大和シティー・バレエ 2021 夏季公演」が、8月14日(土)に神奈川県大和市の大和市文化創造拠点シリウス 芸術文化ホールで上演されました。
昨年に続く「想像×創造」の第二弾で、今年は『追う者と追われる者』をテーマにした作品で観客の想像力を刺激しました!
今回は、大和シティー・バレエ 2021 夏季公演 想像×創造 Vol.2『追う者と追われる者』の感想と秋季公演「『玉藻の前』〜お前はそれほどにわたしが恋しいか〜」についてお知らせします。
大和シティー・バレエ 2021 夏季公演 想像×創造 Vol.2『追う者と追われる者』鑑賞レポート
大和シティー・バレエは、ダンサーをはじめ多様なジャンルのアーティストたちに活動の場を提供するとともに人材育成を目的として2016年に設立されました。
総合プロデューサーの佐々木三夏さんは佐々木三夏バレエアカデミーの主宰者でもあり、ハンブルク・バレエ プリンシパルの菅井円加さんをはじめ、多数の優れたダンサーを育てています。
気鋭の振付家による新作を発表したり国内外のカンパニーで活躍するトップダンサーをゲストに招いたり、ここでしか見ることができない舞台が好評を博しています。
2020年12月には、宝満直也さん振付の『美女と野獣』を新国立劇場バレエ団の小野絢子さんと福岡雄大さんが主演し世界初演するなど、精力的に活動を展開しています。
昨夏に始まった「想像×創造」は、振付家が与えられたテーマに沿って創作した作品を上演するもので、昨年は「日本の怪談」がテーマに取り上げられました。
今年は「想像×創造」の第二弾で、「追う者と追われる者」がテーマです。
第一部
「ララの歌」(ブラウリオ・アルバレス 振付)
本公演のオープニングを飾ったのは、大和シティー・バレエ初登場となるブラウリオ・アルバレスさんの作品で、ラテンの作曲家による楽曲を用いたとても楽しい作品でした。
ノーブルなイメージが強い渡邊峻郁さんも普段とは異なる表情を見せ、新国立劇場バレエ団の公演では一緒に踊る機会のない五月女遥さんとともにリラックスした感じでラテンのリズムに乗っていたのが印象的でした。
また、バレエ・アム・ラインで活躍中の石崎双葉さんと佐々木三夏バレエアカデミー出身でスペイン国立ダンスカンパニーで活躍中の大谷遥陽さんがデュオを踊るという贅沢なキャスティングも楽しめました。
石崎双葉さんとブラウリオ・アルバレスさんは、かつてハンブルク・バレエでは同僚だったそうです。
楽しさに包まれた作品で、明るい気持ちにさせてくれる幕開けでした。
第二部
「Disconnect」(宝満直也 振付)
「Disconnect」は、Yamato City Ballet 2020 冬季公演で上演された『美女と野獣』を振り付けた宝満直也さんの作品で、宝満さんが新国立劇場バレエ団に在籍していた2016年3月に新国立劇場のダンス公演「DANCE to the Future 2016」で初演された作品です。
宝満さんの代表作と言っても過言ではない作品で、オリジナルキャストである五月女遥さんと宝満さん自身が出演しました。
相手を掴もうとしてもスルリ、ヒラリとかわされてしまうような二人の関係性を表現しているように感じられ、スピーディーで緻密に組み上げられた振り付けながらも息の合った掛け合いに引き込まれます。
もとは「繋がれないこと」をテーマとした作品ですが、見方によっては「追う者と追われる者」にも通じる作品のようにも感じられます。
高い身体能力で緩急自在に動き回る五月女遥さんの圧巻の踊りは特筆もので、久しぶりに五月女さんの魅力を堪能することができました。
また、ヴァイオリン(大槻桃斗、矢部咲紀子)、ヴィオラ(正田響子)、チェロ(岡本梨紗子)、コントラバス(清沢健生)の生演奏で上演され、次の作品までの幕間には大槻桃斗さんのソロで楽しませてくれるという贅沢な時間でした。
「最後の晩餐前」(竹内春美 振付)
誰もが目にしたことがあるであろう、イエス・キリストと12使徒による最後の晩餐を描いた、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「最後の晩餐」のさらに「前」をモチーフにしたというユニークな発想の作品です。
晩餐のテーブル前にはイエス・キリストと12使徒に扮したダンサーたちが立ち並び、緻密に組み立てられた踊りがスピーディーに展開されました。
緻密であるが故に、振りを間違えたりタイミング少しでも合わなければダンスとして成立しなくなる、と緊張していまいそうなものですが、ダンサーたちからはそういったプレッシャーよりもむしろ溢れ出るパトス(pathos)が強く感じられました。
第三部
「オペラ座の怪人ー地下迷宮ー」(池上直子 振付)
ミュージカルや映画で有名な「オペラ座の怪人」をもとにした作品で、原作ではパリ・オペラ座の歌手クリスティーヌはこの作品ではダンサーという設定です。
木村優里さん演じるクリスティーヌと渡邊拓朗さん演じるファントムとの関係性がミステリアスに描かれ、原作にはない子供時代のファントムを登場させ、不遇な過去が人格形成に影を落とした心情を深く掘り下げる演出となっています。
鳥籠と子供時代のファントムのシルエットを幕に映し出したり登場人物の心情を描き出すなど、演出がよく練られている印象を受けました。
昨年の「想像×創造」で上演された「牡丹灯籠」でも演出・構成に秀でた手腕を見せており、秋に予定されている「Yamato City Ballet 2021 秋季公演『玉藻の前』〜お前はそれほどにわたしが恋しいか〜」(世界初演)の上演にも期待が高まります。
「Life -Line」(福田紘也 振付)
独創性豊かな福田紘也さんの世界観を川口 藍さんと八幡顕光さんの主演で描いた作品で、近未来感溢れるスタイリッシュな演出でした。
福田紘也さんは本作品を「無機物/有機物で線引きした『命を有しているか、有していないか』の価値観が問われるロボットが台頭する近未来の世界」を舞台とし、「解決されそうにない貧困問題と隷属問題を全てひっくるめた作品」であると紹介しています。
作品タイトルである「Life-Line」の意味する「命綱」を暗示させる演出が随所に見られ、福田圭吾さん演じる車椅子に乗った老人や福岡雄大さん演じるターミネーターのような存在も登場させ、主役の二人を執拗に追いかける展開でスピーディーかつスリリングに描かれていました。
おわりに
今回のテーマ「追う者と追われる者」は、昨年のテーマ「日本の怪談」よりも難易度が高かったのではないでしょうか。
「日本の怪談」は具体的なモチーフを用いることができましたが、「追う者と追われる者」は抽象的だったからかもしれません。
作品を創造し演じる側のみならず鑑賞者にとっても同様のように思います。
あの作品はどのように受け止めればよいのだろうかなどと、今、こうして感想を書いている筆者も知恵熱に浮かされています。
「想像×創造」シリーズは、作品を創造する振付家と演じるダンサーにとって表現力を磨く機会であると同時に観客にとっては鑑賞眼を鍛える機会にもなっているように思えてきました。
「難しいことを考えずに自然体で舞台を楽しめばよいのではないか」という意見もあろうかと思いますが、筆者は鑑賞眼を磨くために精進することをあらためて決意しました。
次回はどのようなテーマが出題されるのでしょうか?
鑑賞者にとっても挑戦です。
公演記録
Yamato City Ballet 2021 夏季公演『追う者と追われる者』
■日程:2021年8月14日(土)18:00開演
■会場:大和市文化創造拠点 シリウス 芸術文化ホール
■プログラム:
「ララの歌」(ブラウリオ・アルバレス 振付)
「Disconnect」(宝満直也 振付)
「最後の晩餐前」(竹内春美 振付)
「オペラ座の怪人ー地下迷宮ー」(池上直子 振付)
「Life -Line」(福田紘也 振付)
■公式サイト:https://www.ycb-ballet.com/s
【次回公演】Yamato City Ballet 2021 秋季公演
『玉藻の前』〜お前はそれほどにわたしが恋しいか〜(世界初演)
Yamato City Ballet 2021 夏季公演『追う者と追われる者』で上演された「オペラ座の怪人ー地下迷宮ー」を振り付けた池上直子さんによる世界初演作品で、K-BALLET COMPANYからゲスト出演する飯島望未さんと杉野 慧さんが主演します。
■日程:2021年10月22日(金)18:00開演予定
■会場:大和市文化創造拠点シリウス 芸術文化ホール
■チケット販売:
・YCBクラブ会員 先行割引販売:2021年8月20日~
・一般販売:2021年9月1日 10:00 ~
【振付】池上直子
【原作】岡本綺堂
【主演】
飯島望未(K-BALLET COMPANY)
杉野 慧(K-BALLET COMPANY)
【出演】
高岸直樹
児玉アリス、八幡顕光、菊地 研、
小出顕太郎、Braulio Alvarez、南江祐生、
望月寛斗、大宮大奨、戸田 祈、
安藤沙綾、大上のの、冨岡瑞希、森 加奈
【大和シティー・バレエ メンバー】
牧 祥子、古尾谷莉奈、萩原ゆうき、
橋本侑佳、細井佑季、
河村美来、刀祢平美咲、田中杏奈
【演奏】
小林太郎(和太鼓)
鎌田薫水(薩摩琵琶)
高橋佳奈子(笛)
■公式サイト:https://www.ycb-ballet.com/a
【好評配信中】Yamato City Ballet 2020 冬季公演『美女と野獣』
新国立劇場バレエ団の小野絢子さんと福岡雄大さんの主演で世界初演されたYamato City Ballet 2020 冬季公演『美女と野獣』がオンラインにて好評配信中です。
振付は、大和シティー・バレエ 2021 夏季公演で上演された「Disconnect」を提供した宝満直也さんです。
視聴券は税込2,200円で、視聴チケット購入後2週間は何回でも鑑賞することができます。
■公式サイト:https://www.ycb-ballet.com/w