【鑑賞レポ】映画『ロミオとジュリエット』(英国ロイヤル・バレエ)フランチェスカ・ヘイワード&ウィリアム・ブレイスウェル主演

英国ロイヤル・バレエのフランチェスカ・ヘイワードとウィリアム・ブレイスウェルが主演し、新世代ロイヤル・ダンサーが出演した画期的なバレエ映画『ロミオとジュリエット』が2020年3月6日(金)に公開されました。

プロコフィエフの音楽にマクミランが振り付けたドラマティック・バレエ不朽の名作『ロミオとジュリエット』を16世紀のヴェローナの街並みを再現したセットで撮影した話題の映画です。

映画『ロミオとジュリエット』(英国ロイヤル・バレエ)

映画『ロミオとジュリエット』は、英国ロイヤル・バレエ プリンシパルのフランチェスカ・ヘイワードとファースト・ソリストのウィリアム・ブレイスウェルが主演し、英国ロイヤル・バレエの新世代ダンサーを中心にキャスティングされています。

シェイクスピアの戯曲を原作とし、プロコフィエフの音楽にマクミランが振り付けたドラマティック・バレエの傑作『ロミオとジュリエット』が、16世紀のヴェローナの街並みを再現したハンガリーの首都ブダペストにあるセットで撮影されました。

制作スタッフには、コンテンポラリー・ダンス・カンパニーであり、映像制作も行うバレエボーイズ(BalletBoyz)のマイケル・ナンが監督として、ウィリアム・トレヴィットが撮影監督として参加しています。
二人は英国ロイヤル・バレエ出身で、熊川哲也さんのK-BALLET COMPANY設立にも参加しています。
ダンサーとしては、2004年に、シルヴィ・ギエムと踊ったラッセル・マリファントの『ブロークン・フォール』でオリヴィエ賞を受賞し、映像制作では初めてボリショイ・バレエに振り付けた英国人クリストファー・ウィールドンの制作過程を映像に収めたドキュメンタリー「徹底的にボリショイ(Strictly Bolshoi)」でエミー賞を受賞しています。
ダンサーとしても映像作家としても超一流の実績を持ち、バレエを熟知している二人だからこそ撮れた映像ではないでしょうか。

16世紀のヴェローナの街並みを再現したセットで撮影されたことにより、劇場のバレエ公演に比べて現実感や臨場感が飛躍的に高まりました。
そのため、バレエファンにとっては『ロミオとジュリエット』の世界にどっぷりと入り込むことができ、また、バレエに縁がなかった方にとっては親しみやすい作品に仕上がったと言えそうです。

また、映画の本編上映に先立ち、プレミアム試写会の際に撮影されたと思われる映像が流されましたが、英国ロイヤル・バレエのケヴィン・オヘア芸術監督がパリ・オペラ座バレエのオレリー・デュポン芸術監督をエスコートしている様子も確認できました。
オレリー・デュポン芸術監督がこの映画に対してどのような感想を持たれたのかも気になります。

感想

フランチェスカ・ヘイワードとウィリアム・ブレイスウェルの好演とマシュー・ボールの迫真の演技

ジュリエットを演じたのは、ミュージカル映画『キャッツ』への映画初出演にして初主演という偉業を成し遂げた英国ロイヤル・バレエ プリンシパルのフランチェスカ・ヘイワードです。
英国ロイヤル・バレエ・スクールで学び、英国ロイヤル・バレエ入団後にはスターダムを一気に駆け上り、最高位のプリンシパルに昇格した彼女の踊りは従来から定評があります。
映画『ロミオとジュリエット』でもため息が出るほど見事なロイヤル・スタイルを随所で披露していましたが、劇場における鑑賞では決して見ることのできない角度から彼女の踊りを見ることができ、いつもとは異なる美しさを感じることができました。

しかし、映画『ロミオとジュリエット』で特筆すべきは、真に迫った表現力ではないでしょうか。
出演者と観客の位置関係が変わらないステージとカメラが自由自在に移動できる映画とでは表現方法も変わってくるそうです。
また、通常、映画では必ずしも時系列に撮影が行われる訳ではありませんが、この映画ではストーリー同様の順番で撮影が進められ、そのために感情を作り上げていくことができたようです。
フランチェスカ・ヘイワードは、映画『キャッツ』の出演経験により表現手法もさらに広がりを見せました。
その圧倒的な表現力や真に迫った表情などもしっかり確認でき、この映画の魅力をより一層高めていました。

ロミオを演じたのは、ファースト・ソリストのウィリアム・ブレイスウェルです。
フランチェスカ・ヘイワードほどの知名度はないかもしれませんが、彼女と同時期に英国ロイヤル・バレエ・スクールで学び、バーミンガム・ロイヤル・バレエを経て英国ロイヤル・バレエに入団しています。
スラリとした長身でノーブルな印象を受けましたが、一度踊り出せば、長身から美しいラインを見せ、高度な技術をいとも簡単に繰り出していました。
パートなリングも非常に上手く、プリンシパル昇格も時間の問題ではないかと感じさせましたが、何よりも、あたかも本物のロミオがそこに生きているかのような若々しい表情と演技に引き込まれました。

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」の『ロミオとジュリエット』では主演していたプリンシパルのマシュー・ボールはティボルト役での出演です。
映画『ロミオとジュリエット』でもマシュー・ボールの主演が順当であろうと思っている方は少なくなかったのではないかと思いますが、実際、マシュー・ボールもロミオを演じたかったようです。
『ロミオとジュリエット』では、ティボルトの悪態のつき方が、ロミオを引き立て、悲劇をさらに深めるようにも思われますが、その意味においてはマシュー・ボールは演技の幅の広がりを感じさせる熱演で物語に深みを与えていました。

英国ロイヤル・バレエの新世代ダンサーが大活躍

映画『ロミオとジュリエット』では、主要な役を新世代の若手ダンサーが演じていますが、マキューシオ役のマルセリーノ・サンベも昨年、2019年の日本公演を間近に控えた時期にプリンシパルへ昇格が発表された期待の若手ダンサーです。
マキューシオには高度な技術が求められ、物語の進行にも重要な役ですが、踊りでは、超絶技巧の連続を軽々と決め、快活なキャラクター作りで演技でマキューシオという人物を完璧に体現していました。

あらゆるものがボーダーレスとなり、英国ロイヤル・バレエも英国人以外のダンサーが増え多国籍化しています。
しかし、この映画に出演していた主要な役柄には英国人しかも英国ロイヤル・バレエ・スクール出身者が多かったように感じます。
バレエダンサーも国籍を問うのはナンセンスになってきていることは理解していますが、やはり、「英国ロイヤル・バレエ」というからには英国のアイデンティティを強く感じたいと筆者は思っています。

そうは言っても、英国ロイヤル・バレエで日本人ダンサーが活躍していることにも誇りを感じるのも事実です。
日本人ファースト・ソリストの金子扶生さんは、「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」と同じくロザライン役で出演していますが、欧米人をも差し置く上品でエレガントな雰囲気で好演していることに喜びを感じ、自分の言っていることに矛盾も感じます。✌︎(‘ω’✌︎ )
金子扶生さんは、2020年5月に上映される「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20」の『眠れる森の美女』では、怪我で降板したローレン・カスバートソンの代役に抜擢され主演しています。
こちらも楽しみですね。✌︎(‘ω’✌︎ )

映画版を鑑賞したからこそ気づいた舞台芸術の魅力

映画『ロミオとジュリエット』は、16世紀のヴェローナの街並みを再現したセットで撮影することにより、現実感や臨場感を高めました。
また、映画版を鑑賞したからこそ気づいた劇場公演の魅力もありました。

劇場の舞台美術は、劇場という限られた空間をどのように魅力的に見せるための工夫が施され、遠近法をはじめとした様々な技法が用いられています。
他方、映画の舞台セットは本物のように作られるので、劇場の舞台美術に比べれば圧倒的に現実感があります。
現実感という点においては劇場の舞台美術には及びませんが、現実感に劣るが故に、観客にはイメージする余白が残されています。
本物のように作られたセットは現実感が高いがゆえに、観客がイメージする余地を奪います。
今回、映画『ロミオとジュリエット』を鑑賞し、劇場では無意識にイメージを膨らませていたことに気づきました。
舞台装置に込められた意図や技法にあらためて関心を抱くとともに、その影響力に驚かされるきっかけとなりました。
どちらが優れているのかということではなく、映画化されたバレエを観ることにより、舞台芸術をあらためて捉え直す体験となりました。

上に挙げたのは一例ですが、映画版を観賞することにより気づく舞台芸術の素晴らしさは少なくないと思います。
ぜひ、皆さんも映画『ロミオとジュリエット』をご覧いただき、通常の劇場で観るバレエとの違いを感じてみてください。
きっと新たな発見があることと思います。

主要ダンサーのインタビュー記事リンク集

■フランチェスカ・ヘイワード
【FASHION PRESS】
https://www.fashion-press.net/news/58753
【エンタメ特化型情報メディア スパイス】
https://spice.eplus.jp/articles/266068

映画『ロミオとジュリエット』フランチェスカ・ヘイワード インタビュー
映画『ロミオとジュリエット』フランチェスカ・ヘイワード インタビュー

■ウィリアム・ブレイスウェル
【CLASSICA JAPAN】
https://www.classica-jp.com/column/14214/
【Astageアステージ】
http://www.astage-ent.com/cinema/romeo-juliet.html
【エンタメ特化型情報メディア スパイス】
https://spice.eplus.jp/articles/265643?fbclid=IwAR2HuNmaUoiTbnFVqZ5BZKDbRHusPqZwFwZwhcz6yin8loyCKEJBQ-ZNFjc

バレエの映画化 これからの期待

バレエ『ロミオとジュリエット』を映画化した取り組みは様々な広がりをもたらすのではないかと思います。
映画撮影で得られた演技の広がりは、ステージでの表現にも繋がってくると感じます。
ドラマティックなバレエをアイデンティティとする英国ロイヤル・バレエだけに、今回の経験は多くのダンサーに演技力を高め表現方法の幅を広げる嬉しい効果が期待でき、本業のバレエ公演にも良い影響をもたらすはずです。

パリ・オペラ座バレエのオレリー・デュポン芸術監督は、プレミアム試写会で映画『ロミオとジュリエット』を鑑賞しています。
バレエ・カンパニーの芸術監督としては、カンパニーの活動について、いろいろと考えていると思います。
彼女の感想が気になるところですが、もし、バレエの映画化に良い感触を持たれたとしたら、パリ・オペラ座バレエでも同様の企画を検討することも考えられます。
もし、そうなったら英国ロイヤル・バレエの取り組みを参考にしつつもパリ・オペラ座バレエならではの取り組みも打ち出してくるはずです。
もしパリ・オペラ座バレエがバレエを映画化してくれるとしたら個人的には『ジゼル』と取り上げて欲しいと思いました。
英国ロイヤル・バレエが第二弾作品を制作してくれるのであれば、マクミラン版『マイヤリング(うたかたの恋)』やアシュトン版『シンデレラ』などが良い気がします。
良い影響を与え合いながら、バレエの映画化が一つのジャンルとして確立できたら素晴らしいことだと一人妄想せずにはいられません。

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