【鑑賞レポ】大和シティーバレエ「SUMMER CONCERT 2020『想像×創造』」

神奈川の「大和市文化創造拠点シリウス」を拠点に活動している大和シティーバレエが、夏季公演「SUMMER CONCERT」を2020年8月14日(金)に上演しました。

今夏のテーマは「想像×創造」

第1部ではネオクラシック作品を2演目上演し、第2部では日本の怪談をモチーフにして4名の振付家が創作した「日本の怪談シリーズ」4演目を上演しました。

猛暑が続く日々ですが、日本の怪談シリーズで涼を取ることができたでしょうか?!

今回は、大和シティーバレエ「SUMMER CONCERT 2020『想像×創造』」の鑑賞レポートと次回予定されている冬季公演『美女と野獣』について紹介します。

大和シティーバレエ
SUMMER CONCERT

大和シティーバレエは、菅井円加さん(ハンブルク・バレエ)や大谷遥陽さん(スペイン国立ダンスカンパニー)、五月女 遥さん(新国立劇場バレエ団)ら国内外で活躍するダンサーを多く輩出している佐々木三夏バレエアカデミー(SBA)を母体とし、「大和市文化創造拠点シリウス」の開設を機に2016年秋に設立されました。

古典作品のみならず、2018年の井上博文振付・関直人改訂振付「ゆきひめ」の発掘上演や気鋭振付家のコンテンポラリーの新作上演など、意欲的な舞台活動に取り組んでいます。

国内外で活躍しているSBA出身者に加えて新国立劇場バレエ団をはじめとした日本を代表するカンパニーのダンサーも多数出演して質の高い舞台を地元・神奈川県大和市で提供しています。

大和シティーバレエ
「SUMMER CONCERT 2020『想像×創造』」レポート

今回の公演は、ネオクラシック2作品と日本の怪談をモチーフにした「日本の怪談シリーズ」4作品の2部構成。
第1部ではコンテンポラリーやネオクラシックが苦手な方にも受け入れやすい美しい作品が続き、第2部では演目の選定はそれぞれの振付家に任せて自由な創作意欲を尊重しつつも、全体としては連作であるかのように違和感なくまとめられた「怪談シリーズ」で観客を非日常的な世界に招き入れていました。

【第1部】
中原麻里さんのネオクラシック作品「NYX」よりルナティックは、2018年6月の「ラ ダンス コントラステ」公演で初演されて好評を博した作品で、新国立劇場バレエ団の五月女 遥さんと渡邊峻郁さんという、新国の公演では見ることのできない貴重な組み合わせにより踊られました。
五月女さんの卓越した踊りと渡邊さんのサポートが光る素直に美しいパ・ド・ドゥを見て、今回の公演への期待が膨らみます。

木下嘉人さんの「Contact」は、3組6人のダンサーが奏でる、接触、接点、つながりといったContactという言葉が持つ意味を連想させる作品で、木下さん自身も米沢 唯さんを相手に出演しました。
新型コロナウイルス感染症によって分断された世界へと一変した現在、3組のペアの踊りを通して繋がる希望を見出すことができるような美しい作品でした。
ダンサーとしての木下さんは強靭なテクニックが持ち味ですが、振付家として見せた異なる魅力が新鮮です。

【第2部】
第2部は気鋭の振付家4人による日本の怪談を題材とした新作の上演です。

熊谷拓明さんの作品は、小泉八雲原作の「耳なし芳一」をもとにし、台詞を使いオリジナルの物語を創作する「ダンス劇」と呼んでいる作品でした。
衣装や台詞からは、舞台を現代に設定しているように思える作品で、熊谷さん自らは黒のシャツとパンツというスタイルで登場し、語り部として舞台を進行しているようでした。
「耳なし芳一」の世界観を表現するには必須の楽器である琵琶に加え和太鼓と銅鑼(どら)による演奏がとても印象的で、独特の世界観を提示するにはうってつけでした。
和太鼓の迫力、銅羅と琵琶の表現力豊かな演奏は、使用している楽器が三種類しかないとは思えないほど叙情性に溢れ、観客を引き込みました。
ラストは本作を振り付けた熊谷拓明さんがソロを踊り締めくくりました。


第1部にも登場した中原麻里さんの作品は、小泉八雲の「雪女」を題材とし、雪女の怖さというよりは、様々な愛の形とその哀しさを表現したという作品です。
2018年に上演された井上博文振付・関直人改訂振付「ゆきひめ」も同じく小泉八雲の「雪女」から想を得ていますが、その作品でもタイトルロールを演じた小野絢子さんが本作でも主演しました。
小野さんの凛とした佇まいは雪女の異質な存在感を印象付けたかと思うと様々表情を見せ、巳之吉を演じた福田圭吾さんの演技はその表情をさらに引き立たせていました。
雪を思わせる美しいアンサンブルが作品の枠組みを形作り、作品に安定感をもたらしていたように感じます。


福田紘也さんの作品は、落語の「死神」をもとにし、ポップカルチャーの要素もミックスしたそうです。
本島美和さん、福岡雄大さん、五月女 遥さんといった新国立劇場バレエ団の素晴らしいダンサーとともに福田さん自身も出演しています。
人の寿命を暗示する蝋燭(ろうそく)を効果的に用い、不気味な存在感を漂わせた死神を演じる本島さん、死神から必死に命の灯火を繋ぎ留めようとする福岡さんの没入感に引き込まれました。
抜群の身体能力で小気味良く繰り広げられた五月女さんの踊りは作品に緊迫感やアクセントを与えていました。


池上直子さんが振り付けた「牡丹灯籠」は、浪人である新三郎が、相手が怨霊であることを知らずにお露を愛してしまう悲劇である落語の怪談噺をもとにした作品で、米沢 唯さんと宝満直也さんが演じました。
「障子」を自在に操り、最小限の舞台装置ながらも舞台上に大きな変化を与えた演出に感心しました。
後ろから照明を当てて障子に映し出される影絵を表現したり、縦横無尽にフォーメーションを変化させたかと思えば障子を機能的に配置して家屋という舞台を設定したりと、とても効果的な演出だと感じました。
新三郎を演じた宝満直也さんは、大和シティーバレエの公演では振付家として作品を提供することが多いなか、今回はダンサーとしての出演したことが新鮮でした。
振付家としての活動が定着していることもあり、宝満さんの踊りを初めて見た観客も少なくなかったのではないでしょうか。
また、日ごとにやつれていく新三郎の異変に気づき、梵字のお札を授けて守ろうと奮闘する和尚を演じた渡邊拓朗さんの好演にも引き込まれました。

日本の夏の納涼といえば「怪談」ということもあり、「日本の怪談シリーズ」に涼を得ることを期待していたところもありますが、得られたのは、むしろ、舞台から発せられた熱気でした!

しかし、それは、この上なく心地の良い熱気でした!

新型コロナウイルスによる影響で長らく舞台活動が制限される日々が続きましたが、振付家、ダンサー、楽器奏者、舞台関係者の皆さんが発する、舞台で表現することへの喜びがひしひしと伝わってきました!


大和シティーバレエでは、久しく上演されていない作品を発掘して挑戦したり、今回のように取り上げられる機会の少ないテーマで新作の競演を試みたりと、挑戦的な企画が続いています。

大和シティーバレエの若いダンサーにとっては、国内外で活躍するトップダンサーとともに舞台に立つ機会を得るだけではなく、新しい作品が産み出される創造の場に立ち合い、ときにはクリエーションにも参加する貴重な機会となっているのではないでしょうか。

今年の年末には宝満直也さん振付の『美女と野獣』の世界初演が待っています。

これからも、どのような趣向で観客を楽しませてくれるのか、大和シティーバレエの挑戦に期待が高まる好企画でした。

公演概要

大和シティーバレエ夏季公演
「SUMMER CONCERT 2020 想像×創造」

■日程:2020年8月14日(金)18:00開演
■会場:大和市文化創造拠点 シリウス1階 やまと芸術文化ホール メインホール

第1部

「NYX」よりルナティック
■振付:中原麻里
■曲:フレデリック・ショパン
■出演:五月女 遥、渡邊峻郁
■ピアノ:大滝 俊

CONTACT
■振付:木下嘉人
■曲:EZIO BOSSO
■出演:米沢 唯、木下嘉人、相原 舞、林田翔平、古尾谷莉奈、森田維央

第2部

怪談「耳なし芳一」
■原作:小泉八雲
■振付:熊谷拓明
■出演:
芳一:小出顕太郎
和尚:望月寛斗
琵琶:鎌田薫水
和太鼓:小林太郎
ダンサー:稲葉由佳利、刀袮平美咲、萩原ゆうき、牧 祥子、細野 生、牧村直紀

「雪女」
■原作:小泉八雲
■振付:中原麻里
■曲:Philip Glass
■出演:
雪女(お雪):小野絢子
巳之吉:福田圭吾
アンサンブル:相原 舞、金田優香、加納美咲、成田 遥、橋本侑佳、盆子原美奈、山田歌子、山本萌葉

「死神」
■原作:三遊亭圓朝
■振付:福田紘也
■曲:Philip Glass
■出演:本島美和、福岡雄大、五月女 遥、福田紘也

牡丹灯籠
■原作:三遊亭圓朝
■振付:池上直子
■出演:
お露:米沢 唯
新三郎:宝満直也
和尚:渡邊拓朗
伴蔵:八幡顕光
御女中達:大上のの、加藤美羽、窪田夏朋、新名かれん、萩原ゆうき、橋本侑佳、古尾谷莉奈、牧 祥子

【次回公演予定】
大和シティーバレエ 冬季公演 2020
『美女と野獣』(世界初演)

大和シティーバレエの冬季公演は、例年、『くるみ割り人形』が上演されてきましたが、2020年は『美女と野獣』(世界初演)を上演します。

振付の宝満直也さんは、新国立劇場バレエ団在籍時から多くの振付作品を発表し、2017年にNBAバレエ団移籍後にはソリストとして活躍する一方で振付補佐も兼ねて『白鳥の湖』『海賊』の全幕作品改訂にも携わってきています。

2020年のバレエ鑑賞納めは、大和シティーバレエ 冬季公演 2020『美女と野獣』で決まりですね!

『美女と野獣(La Belle Et La Bête)』(世界初演)
■日程:2020年12月27日(日)(時間未定)
■会場:大和市文化創造拠点 シリウス1階 やまと芸術文化ホール メインホール(小田急江ノ島線・相鉄本線「大和駅」から徒歩3分)
■曲:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
■振付:宝満直也
■主演:小野絢子、福岡雄大
■出演:中家正博、木下嘉人、池田武志、八幡顕光、奥田花純、野久保奈央、飛永嘉慰、森田維央
大和シティーバレエ メンバー:相原 舞、古尾谷莉奈、萩原ゆうき、窪田夏朋、橋本侑佳、牧 祥子、刀袮平美咲
■チケット発売日:2020年9月(予定)
■公式サイト:https://www.ycb-ballet.com/performance