【鑑賞レポ】『ホフマン物語』新国立劇場バレエ団(2017/2018シーズン)

新国立劇場バレエ団は、2018年2月9日(金)、10(土)、11日(日)の三日間、『ホフマン物語』を上演しました。
鑑賞レポートをお届けます。

プロローグ/エピローグ ラ・ステラ

プロローグとエピローグの場面は「オペラ座のある街角のカフェ」という設定ですが、ここで目を引いたのは3人のホフマンの友人のうちナサーニエル役を踊った井澤諒さんではないでしょうか。

はじめは井澤諒さんとは気づかず、ずいぶんと上手いけど誰だろう?と思っていましたが、キャスト表を見て井澤諒さんだと気づき、納得しました。

観客の中からも「右側の男性の動きが良かったねぇ」という声が聞こえてきました。

また、ラ・ステラ役の本島美和さんの華やかさは新国立劇場バレエ団随一です。

第1幕 オリンピア(第1の物語)

第1幕は、スパランザーニ(悪の化身)が作った人形をホフマンが魔法のめがねをかけて生きていると思い込む設定です。

これは誰もが『コッペリア』を想像するのではないでしょうか。

それもそのはず、原作者はE.T.A.ホフマンです。

『コッペリア』の原作はE.T.A.ホフマンの『砂男』ですが、『ホフマン物語』の第1幕オリンピアは『砂男』を元に主人公をホフマンにしたものだからです。

この人形であるオリンピアには人形らしい動きと無表情が求められます。

この役を演じたのは、池田理沙子さん、柴山紗帆さん、奥田花純さんの3人です。

奥田さんは初演時にもオリンピアを演じていますので、実績がありますが、池田さんと柴山さんは初役です。

3人とも踊りは折り紙付きですから安心して観ていられますが、金髪のお人形さんのかつらの印象は三人三様でした。

多くは語りませんが、個人的には柴山さんが一番似合っていたように思います。

第2幕 アントニア(第2の物語)

第2幕は、踊りが好きだけど謎の病を患い過度の運動を禁じられているアントニアですが、ドクター・ミラクルに催眠術をかけられて見る幻影のシーンは3つの物語のなかでは古典らしい踊りを堪能できます。

このシーンはなんとなく『ラ・バヤデール』の「影の王国」を想起させました。

アントニア役は、前回に続いて小野絢子さんと米沢唯さんが踊りました。

二人ともさすがの踊りです、踊っている最中に発作を起こして倒れるシーンでは、迫真の演技で圧倒されます。

とくに小野さんの演技は鬼気迫るものがあり、彼女の演技力はさらに深化したものと感じました。

第3幕 ジュリエッタ(第3の物語)

第3幕はベネチアの高級娼婦であるジュリエッタにホフマンが誘惑される艶めかしい場面が続きます。

前回に引き続き踊られた本島美和さんは他の追随を許さぬ好演で、これは予想通りなのですが、初役の木村優里さんには少し早いかなと思っていたところですが、貫禄すら感じる存在感を放っており、これにも木村さんの演技力の幅の広さを感じ入りました。

ホフマン

ホフマンは初日の福岡雄大さん、二日目の菅野英男さんは若者の溌剌とした雰囲気から、歳を重ねて哀愁漂う背中まで演技が深化していました。

井澤さんはもう少し成熟する必要がありそうです。

歳を重ねたといってもアイドルグループ「嵐」の松本潤さんかと思うくらい、イケメン過ぎでしたので・・・

悪の化身(リンドルフほか)

この演目の主役はホフマンですが、幕ごとに姿を変えて彼につきまとう悪の化身(リンドルフ、スパランザーニ、ドクター・ミラクル、ダーパテュート)も非常に重要な存在だと感じます。

彼の演技、存在感によりホフマンの苦悩がより浮かび上がるからです。

初演時にはマイレン・トレウバエフさん(現登録ダンサー・プリンシパル)と貝川鐵夫さんが演じましたが、とくにトレウバエフさんの強烈な存在感はまさに適役でした。

今回は、前回に続いて貝川さんが演じ、新たに中家正博さんも配役されましたが、予想以上に中家さん演じるスパランザーニでのはじけっぷりは最高でした。
長身でガタイが良くイケメンの中家さんですが、王子様はもちろんのこと、こういったオチャラケキャラでのはじけっぷりも楽しく、意外な一面を発見しました。

貝川さん演じる悪の化身は少しインパクトに欠けたように感じましたが、第2幕でのアントニアの父で音楽教師クレスペル役では品格の漂う立ち居振る舞いが最高に格好良く、これまた適役でした。

感想

初演時は5回公演でしたが、今回の再演では3回公演でした。

前回の実績を考慮し決められた上演回数だと思いますが、ドイツのハンブルク・バレエ団の来日公演と日程が重なったこともあり、3回公演にも関わらず満員御礼とはいかなかったようです。

ダンサーを育てるために非常に有益な演目であることは間違いないでしょうが、集客面での難しさを感じました。

物語をどのように受け止めるべきなのか、といったところがしっくりときません。

ホフマン物語では4人の女性(3人プラス1体?)との恋愛を悪の化身によって邪魔されます。

この悲恋の原因が全てホフマンにあるのではなく、悪の化身による仕業なのですが、悪に取りつかれてしまっているのだから仕方のないことで、ホフマンにはどうしようもありません。

物語に必ずしもメッセージを求めるべきではないのでしょうが、ホフマンは不幸だねとしか言いようがない、やるせなさを感じます。

個人的には、因果応報的なメッセージがないと判然としない宙ぶらりんな気持ちで劇場を後にしました。

オペラ『ホフマン物語』

なお、新国立劇場では、バレエ『ホフマン物語』が終演しましたが、今度はオペラ『ホフマン物語』が上演されます。

2月28日(水)18:30
3月3日(土)14:00
3月6日(火)14:00
3月10日(土)14:00