新国立劇場バレエ団『マノン』(2019/2020シーズン)が2020年2月22日(土)に新国立劇場 オペラパレスにて開幕しました。
ドラマティック・バレエの不朽の名作ケネス・マクミラン振付『マノン』を新国立劇場バレエ団が誇るプリマ米沢 唯さんと英国ロイヤル・バレエのワディム・ムンタギロフさんが感情を揺さぶる名演で魅せました。
今回は、 新国立劇場バレエ団『マノン』(2019/2020シーズン) の初日(2月22日)のステージについて感想を交えてレポートしたいと思います。
また、新国立劇場バレエ団の公式Facebookで公開された2月23日(日)上演の舞台映像も紹介します。
新国立劇場バレエ団『マノン』(2019/2020シーズン)
8年ぶりの上演となった新国立劇場バレエ団『マノン』
令和2年(2020年)2月22日(土)午後2時00分、2012年の上演以来8年ぶりとなる新国立劇場バレエ団『マノン』が開幕しました。
ドラマティック・バレエの傑作マクミラン振付『マノン』の上演が8年ぶりとなったのは、それだけ上演することが難しい演目ということを示しているのでしょう。
2012年上演時のキャストは、ヒューストン・バレエから客演したサラ・ウェッブ/コナー・ウォルシュのペアと小野絢子/福岡雄大ペア、本島美和/山本隆之ペアの3キャストでした。
今回のキャストは、米沢 唯/ワディム・ムンタギロフのペアと小野絢子/福岡雄大ペア、米沢 唯/井澤 駿ペアの3組が配されました。
小野/福岡ペアは前回・8年前の上演時に続く『マノン』主演です。
今シーズン(2019/2020シーズン)の『マノン』の公演リーフレットやポスター、予告編映像(3分で分かる!バレエ「マノン」新国立劇場バレエ団)』)などで使用されている写真や動画は8年前に主演した小野さんと福岡さんのものだと思われます。
8年前は高級娼婦役で出演していた米沢 唯さんは、英国ロイヤル・バレエ プリンシパルのワディム・ムンタギロフさんを相手にマノン役デビューを果たしました。
米沢さんは井澤 駿さんとも共演する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のために公演自体が中止となり、米沢/井澤ペアによる公演は幻となってしまいました。
米沢 唯さんとワディム・ムンタギロフさんが魅せた『マノン』新国立劇場バレエ団(2020年2月22日)
新型コロナウイルスのニュースが飛び交い、世の中に不穏な空気が流れてはいたものの、『マノン』は無事に初日を迎えることができました。
ファースト・キャストを努めたのは、タイトルロールのマノン役デビューを果たした米沢 唯さんと英国ロイヤル・バレエから久しぶりに客演したワディム・ムンタギロフさんのペアです。
マノンという役は、世界中のプリマが演じることを望む憧れの役ですが、演劇的な要素が強く、見どころであるアクロバティックなパ・ド・ドゥを含めて高度なバレエ技術も要求されます。
しかし、それ以上に困難だと思われるのは、『マノン』の舞台となっている18世紀のフランスの社会的背景やそのような状況で生きたマノンという人物をどのように理解し表現するのか、という役柄に対するアプローチではないでしょうか。
すでに円熟の域にあり、技術も演技も評価の高い米沢 唯さんは、この難役を見事に演じました。
パートナーが英国を拠点とするワディム・ムンタギロフさんということで、パートナリングの確認作業は時間が限られていたはずですが、息の合ったパートナリングを披露し、そのような苦労など一切感じさせないものでした。
「今観ている舞台は英国ロイヤル・バレエの舞台だ」と言われても全く疑うことがないほど素晴らしい演技でした。
ワディム・ムンタギロフさんはデ・グリューの人生を生き切り、マノンの出自や社会的地位に関わらず、彼女への愛を一途に貫く姿が痛々しいほどに感じられ、
このデ・グリューのひたむきな気持ちこそがマノンを改心させたのだと、ひしひしと伝わってくる名演であったように思います。
意外なことにワディム・ムンタギロフさんは日本で『マノン』に出演するのは初めてだったようですが、新国立劇場バレエ団にはシーズン・ゲスト・プリンシパルとして過去に何度も出演しており、また、日本の舞台に立つ機会も多いのでなじみ深いダンサーです。
以前は若々しい好青年の印象が前面に出ていた気がしますが、今回の舞台では、年齢を重ねて男性的な魅力が増したように思います。
新国立劇場バレエ団の出演者も好演が相次ぎ、大原永子芸術監督が一貫して求め続けてきた演技力も確かな成長を感じられるものでした。
多くを書くことはできませんが、娼家のマダムを演じた本島美和さんは唯一無二の存在感を示し、看守を演じた貝川鐵夫さんも舞台に奥行きを与えていたことは特筆に値します。
大原さんが芸術監督としての最後のシーズンに選んだ演目だけあり、その成長をあちらこちらで感じられる舞台だったと思います。
ワディム・ムンタギロフさん
久しぶりの新国立劇場の舞台
ワディム・ムンタギロフさんの新国立劇場バレエ団の舞台への出演は、2017年11月の『くるみ割り人形』以来でした。
カーテンコールでは新国立劇場バレエ団の公演で踊れたことの嬉しが素直に伝わってきました。
米沢 唯さんが世界のスーパースターでありゲストダンサーであるワディム・ムンタギロフさんを引き立てようとして前に出るように促しましたが、それを拒むように米沢さんを前にしようとするやり取りは日本人的なメンタリティーを感じさせます。
ワディム・ムンタギロフさんは上手袖の方に移動し、米沢さんだけではなく、新国立劇場バレエ団全ダンサーの好演を称えました。
素晴らしい舞台に観客もスタンディングオベーションで応えましが、新国立劇場バレエ団の公演においては、芸術監督の退任やプリンシパルのラスト・ステージなどの特別な公演を除き、ここまで多くの観客がスタンディングオベーションをしている光景は初めて見ました。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために公演中止に!
初役デビューが幻となったダンサーも!
今シーズン、『マノン』は全部で3キャスト5公演が予定されていましたが、政府から新型コロナウイルス感染拡大防止のために文化イベントを含めて開催の延期や中止が要請され、前半の3公演を上演し終えたところで、残りの2公演の中止が発表されました。
中止となった2月29日(土)と3月1日(土)の公演のうち、2月29日の公演では井澤 駿さんがデ・グリュー役デビューの予定でしたが、残念なことに幻となってしまいました。
井澤 駿さんは2016年の『ロメオとジュリエット』のロメオ役デビューを怪我で降板したこともあり、マクミラン作品は簡単には主演デビューをさせてくれない何かを感じます。
2月29日(土)と3月1日(土)の二公演で小野絢子/福岡雄大ペア、米沢 唯/井澤 駿ペアの舞台を楽しみにしていた方も多いかと思います。
しかし、それ以上に努力を重ねてきた成果を舞台上で披露できなかったダンサーの無念がいかばかりかと察するに余りあります。
新型コロナウイルスの問題により、新国立劇場バレエ団に限らず、バレエ公演のほとんどの公演が中止となってしまいました。
新型コロナウイルスによる事態が一刻も早く収束することを願って止みません。
新国立劇場バレエ団『マノン』関連動画
新国立劇場バレエ団公式Facebookでは、2月23日(日)の舞台映像を公開しています。(マノン:米沢 唯、デ・グリュー:ワディム・ムンタギロフ)
「公演を楽しみにしてくださっていた方へ、少しでも本公演の様子をお届けしたい」という新国立劇場の強い思いから公開してくださいました。
【参考】公演中止によるチケット代金の払い戻し
上演が中止された2月29日(土)と3月1日(土)の公演はチケット代金が払い戻されることが発表されています。
払い戻し受付期間は3月31日(火)までとなっておりますので、当該チケットをお持ちの方は早めに手続きしてください。
払い戻し手続き等について、詳細は新国立劇場の公式ウェブサイトをご確認ください。
>>> https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_017138.html
新国立劇場バレエ団『マノン』
2020年2月22日(土)14:00公演概要
スタッフ
■振付:ケネス・マクミラン
■音楽:ジュール・マスネ
■美術・衣裳:ピーター・ファーマー
■照明:沢田祐二
■ステージング:カール・バーネット、パトリシア・ルアンヌ・ヤーン
■衣装スーパーヴァイザー:マイケル・ブラウン
■編曲・指揮:マーティン・イェーツ
■管弦楽:東京交響楽団
キャスト
■マノン:米沢 唯
■デ・グリュー:ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ プリンシパル)
■レスコー:木下嘉人
■ムッシュー G.M.:中家正博
■レスコーの愛人:木村優里
■娼家のマダム:本島美和
■物乞いのリーダー:福田圭吾
■看守:貝川鐵夫
■高級娼婦:寺田亜沙子、奥田花純、柴山紗帆、細田千晶、川口 藍
■踊る紳士:速水渉悟、原 健太、小柴富久修
■客:宇賀大将、清水裕三郎、趙 載範、浜崎恵二朗、福田紘也
【DVD/Blu-ray】ワディム・ムンタギロフ出演『マノン』(英国ロイヤル・バレエ)
残念ながら新国立劇場バレエ団の『マノン』を収録したDVD/Blu-rayは発売されていません。
今回ゲスト出演したワディム・ムンタギロフさんがデ・グリュー役で出演している英国ロイヤル・バレエのDVD/Blu-rayが発売されています。
2018年に収録され、マノン役にサラ・ラムさん、デ・グリュー役にワディム・ムンタギロフさん、レスコー役に平野亮一さんが出演しています。
今回の舞台を鑑賞できなかった方、ワディム・ムンタギロフさんのデ・グリュー役の好演が気になる方には是非ご覧いただきたい映像です。
新国立劇場バレエ団 今後の公演
『ドン・キホーテ』
新国立劇場バレエ団は2020年5月2日(土)~5月10日(日)に『ドン・キホーテ』を豪華6キャストで上演します。
2019/2020シーズンのラインアップを説明した動画でも大原永子芸術監督が「多くのダンサーにチャンスを与えて上げようと思って、今までよりも多いキャスティングでいきたい」と語られていた通り、6キャストという新国立劇場バレエ団では類を見ないキャスティングとなっています。
ゴールデンウイークでの上演ということもあり、お子さま向けにキッズ・バックステージツアーも企画されています。
【関連記事】新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』2020年5月に豪華6キャストで上演
『不思議の国のアリス』
新国立劇場バレエ団は2020年6月、クリストファー・ウィールドン振付『不思議の国のアリス』を再演し、2019/2020シーズンを締めくくります。
2018年の新国立劇場バレエ団による日本初演時には全8公演が満員御礼となるほど好意的に受け入れられました。
今シーズンは、東京での10公演に加え、愛知県及び群馬県での全国公演も合わせて合計14回の上演が決まった大人気作品です。
ゲストダンサーには、共同制作したオーストラリア・バレエからタイ・キング=ウォールと本場英国ロイヤル・バレエのライジング・スターで人気・実力ともに急上昇中のアンナ・ローズ・オサリヴァン(アナ・ローズ・オサリヴァン)が出演します!
日本初演時にも出演したオーストラリア・バレエのジャレッド・マドゥンの出演も決まり、また、同じくオーストラリア・バレエからニコラ・カリーが新国初登場することも決まりました。
日本人ダンサーは、米沢 唯/渡邊峻郁ペア、小野絢子/福岡雄大ペアの二組が初演時に続いて主演することに加え、池田理沙子/井澤 駿ペアも主演し初役デビューします。
ルイス・キャロル原作の世界を再現し、エンターテイメント性と芸術性が高い次元で見事に融合した誰もが楽しめる、多くの方にご覧いただきたいバレエ作品です。
【関連記事】新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』2020年6月上演/アンナ・ローズ・オサリヴァン、タイ・キング=ウォールが客演!
『DANCE to the Future 2020』(ダンス公演)
新国立劇場 ダンス公演として、新国立劇場バレエ団ダンサーによるコンテンポラリー・ダンス公演『DANCE to the Future 2020』が2020年3月27日(金)~3月29日(日)に東京・初台の新国立劇場 小劇場にて上演されます。
普段のバレエ公演では見ることのできない、新国立劇場バレエ団ダンサーたちの魅力的な個性と創意が垣間見える公演を是非お楽しみに!
【関連記事】新国立劇場バレエ団『DANCE to the Future 2020』新国ダンサー振付作品を新国ダンサーが踊る!3月27日(金)~29日(日)に上演